〈登場人物〉
片桐 美鈴 (22) 銀行員
藤本 浩一 (23) 介護士
青山 龍也 (23) 土木作業員
◯とある廃校 六年二組教室
夕日が差し込み、教室がオレンジ色に染まっている。うっすらと聞こえる波の音。
窓から海を眺めている美鈴。肩にはカバンをかけている。
美鈴 語り(録音)「いつまでも過去を生きている気がしていた。時間が経っても環境が変わっても、気がつけばあの頃を思い出している。楽しかったあの頃を。ずっとこの時間が続けばいいと思っていたあの頃を。過去を生きる、それが今この一瞬を否定する事だとしたら・・・アタシはちゃんと前に進めているのだろうか・・・」
浩一がやってくる。
浩一 「あの・・・」
窓を閉める美鈴。
美鈴 「(振り返って)久しぶり」
浩一 「え?」
美鈴 「浩一だろ?」
浩一 「美鈴・・・なのか?」
美鈴 「あぁ」
浩一 「・・・驚いた。一瞬、誰かわからなかった」
美鈴 「アタシを忘れるなんて、浩一も意外に薄情な奴だったんだな」
浩一 「いや、そうじゃなくて、何か雰囲気が変わってたから」
美鈴 「そうか?」
浩一 「うん、大人っぽくなった」
美鈴 「・・・ありがとう」
浩一 「けど、その話し方は相変わらずだな」
美鈴 「おぃ、褒めてたんじゃないのか」
浩一 「安心するって意味だよ」
美鈴 「まぁ、直さなきゃいけないとは思うんだけど、昔からこの感じだからな」
浩一 「美鈴はそれでいいんじゃない?」
美鈴 「・・・てか、そういうあんたは変わってないな」
浩一 「そう?」
美鈴 「あぁ、全く何も変わってない」
浩一 「何か成長してないみたいで、複雑なんだけど」
美鈴 「安心するって意味だよ」
浩一 「(笑顔で)それはどうも」
教室を見渡す浩一。
浩一 「懐かしいな」
美鈴 「池畑先生が気を使ってくれたんだろうな。アタシ達の机も、黒板の文字もあの時のまま残ってるよ」
黒板には『卒業おめでとう』の文字や、生徒のメッセージが書かれている。
浩一 「(黒板を眺めて)凄いな、卒業式に書いたやつだっけ」
美鈴 「あぁ」
浩一 「結局、俺たちが最後の卒業生か」
美鈴 「何もない田舎町だからな。大人は他の町へ出て行くし、子供もどんどん減っていく。アタシ達の中学が小中一貫校になった時点で、この学校の役目は終わっていたんだ」
浩一 「けど、つかさが守ってくれた」
美鈴 「あぁ。何回も取り壊しの話が出てたけど、あいつ中一の時に大人に呼びかけて、よく反対運動してたからな」
浩一 「俺たちの協力なんていらないんじゃないかって思うぐらい、一生懸命だったな」
美鈴 「体が丈夫じゃないくせによくやるよ」
沈黙。
美鈴 「(浩一と同時に)あのさ・・・」
浩一 「(美鈴と同時に)今日って・・・俺たち集まる約束をしてたんだよな?」
美鈴 「・・・あぁ。卒業式の日に、つかさとアタシ達で約束をした」
浩一 「そうだよな」
美鈴 「10年後もう一度、この教室で再会しよう。大人になったみんなで、いつもみたいに夏祭りにいこう・・・ずっとつかさはそう言ってた。けど、あまりにも先の話だったからな。アタシ達で卒業文集に集合日時を書いておいたのは正解だったと思う」
浩一 「卒業文集か・・・結局、俺には意味がなかったな」
美鈴 「え?」
浩一 「今日集まる約束、すっかり忘れてたんだ。今回の事があるまで・・・何でだろうな、あんなに大切な事だって思ってたはずなのに。忘れたらいけない事だって思ってたのに・・・」
美鈴 「浩一」
浩一 「自分が自分で嫌になるよ・・・だからこんな事が起きたんだと思う」
美鈴 「それは・・・」
浩一 「美鈴はどう思う?」
美鈴 「どうって?」
浩一 「これって本当につかさが・・・」
浩一 「アタシには・・・わからない・・・」
青山がやってくる。
美鈴 「青山?」
青山 「美鈴と浩一か・・・本当に来てたんだな」
浩一 「・・・」
青山 「(状況を再認識して)今から同窓会でもやれっていうのかよ・・・」
浩一 「青山、俺は・・・」
浩一 「許した訳じゃないから。お前のこと」
浩一 「・・・」
美鈴 「青山、あれから何年経ったと思ってんだよ」
青山 「時間が経ったら全部が許されるっていうのか?」
美鈴 「それは」
浩一 「美鈴、いいんだ」
美鈴 「浩一?」
浩一 「・・・許してもらおうとは思わない。けど、今回の事はちゃんと俺たちで話がしたい」
青山 「今回の事?」
浩一 「だから」
青山 「(ため息をついて)死んだ人間から連絡が届いた事がか?」
一同、沈黙。
青山 「こんな事ってあるかよ。一体、どんな状況だっつーの」
美鈴 「・・・やっぱりか。ここにいるアタシ達全員には連絡がいってたって事だな」
青山 「美鈴」
美鈴 「ん?」
青山 「本気でつかさが連絡してきたって思ってるんじゃないよな?」
美鈴 「まさか、つかさは中二で亡くなってるんだ」
浩一 「・・・」
美鈴 「その本人から連絡が来るなんてありえないだろ」
青山 「じゃあ、何でお前までここに来てんだよ?」
美鈴 「何でって」
青山 「昔っからどんな時も冷静だったお前が、こんな馬鹿馬鹿しい事に振り回されるなんて考えられないって言ってんだよ」
美鈴 「それは」
浩一 「青山だってここに来てるだろ。美鈴の事言えなくないか?」
青山 「何だと」
美鈴 「やめろ。・・・まぁ、確かに青山の言うように馬鹿馬鹿しいとは思うさ。けど、今日は元々集まる予定だっただろ?」
青山 「集まる?」
浩一 「卒業式につかさとみんなで約束したんだ。10年後もう一度、この教室で集まろうって」
青山 「そうか・・・」
浩一 「青山?」
青山 「そうだった。確かにそんなくだらない、約束したな」
浩一 美鈴「・・・」
青山 「だってそうだろ? 結果、最悪の再会になった訳だ。つかさが死んで、みんな疎遠になって、あの頃と何もかもが変わって」
浩一 美鈴「・・・」
青山 「挙げ句の果てに、死んだつかさから連絡が来るなんてな。馬鹿みたいだ。ホラー映画かっつうの」
浩一 「おい・・・」
青山 「俺らもう社会人なんだぞ? それなのにこんな事の為にわざわざ時間作って、地元にまで帰ってきて。笑っちまうよ。何が約束だ、何が再会だ! 結局、今日のこの日なんて全く意味ねぇじゃねぇか!」
浩一 「青山」
青山 「お前らもつかさの幽霊が化けて出る前に、早く帰った方がいいんじゃねぇのか?」
浩一 「・・・いい加減にしろよ青山。言っていい事と悪い事があるだろ」
青山 「じゃあ、お前が俺たちに隠してた事はいい事なのかよ」
浩一 「それは、つかさの為を思って」
青山 「何がつかさの為だ!」
美鈴 「(小声で)やめろ」
青山 「お前はあの頃と何も変わってねぇよ。いつも他人のためにとか言って、結局自分がいい奴でいたいだけじゃねぇか! この偽善者野郎!」
浩一 「誰が偽善者だよ!」
青山 「本当の事だろ!」
浩一 「じゃあ青山はつかさの為に何か出来たのか! 俺が本当の事を言ったらお前は何か出来たのかよ? あの頃だって、何もしないでただ逃げてただけだろ!」
青山 「何だとコラ、もう一回言ってみろ!」
美鈴 「やめろって言ってんだよ!」
動揺する浩一、青山。
沈黙。
美鈴 「もううんざりだ。つかさが亡くなってからアタシ達、喧嘩してばっかじゃないか。こんな事、きっとつかさは望んでない・・・とにかく一度、冷静になって状況を整理しよう」
青山 「・・・」
美鈴 「青山、あんたはアタシ達と一緒にいた。ずっとみんなで仲良くやってたんだ。そして今回、亡くなったはずのつかさから連絡が来た。関係ないだなんて言わせない。あんたには少なくとも責任がある。だから、勝手な行動をとる事は許さない」
青山 「・・・わかったよ」
美鈴 「まず、みんなケータイを出してくれ。本当につかさから連絡が来てるか確認したい」
一同、ケータイを取り出し、画面を見せ合う。
浩一 「『来週の日曜日は約束の日、16時に6年2組の教室集合。忘れないでね。 つかさ』 みんな同じ内容だな」
美鈴 「SNSからのメッセージか。アタシも確認したんだけど、ちゃんとつかさのアカウントが存在するんだ」
浩一 「あぁ、俺も見た」
美鈴 「写真もなかったし、プロフィールも空白だらけだったけど」
青山 「どうせ誰かのイタズラだろ。ったく手の込んだ事しやがって」
美鈴 「誰か返信したか?」
浩一 「一応、俺はしてみたけど何も返事は来なかった」
美鈴 「青山は?」
青山 「んな事する訳ねぇだろ。馬鹿馬鹿しい」
美鈴 「アタシも返信はしなかった」
青山 「(舌打ちをして)」
浩一 「・・・・青山?」
青山 「俺は許せねぇんだよ、勝手に死んだ人間の名前使いやがって」
浩一 「それは俺も同じだ。イタズラにしては度が過ぎてる」
青山 「犯人見つけたら、ただじゃおかねぇ」
美鈴 「犯人か・・・確かにそう呼ぶべきかもな。けど、どんな奴で何が目的なのか・・・今の時点ではわからない事が多すぎる」
浩一 「それって、少なくともつかさを知る人物って事だよな?」
美鈴 「そうだ」
青山 「・・・」
美鈴 「つかさが亡くなったのは中二の三学期。けど、一学期も二学期も入退院を繰り返していたから、ほとんど学校には行ってない。つまり、小学校から中一までの期間でつかさを知っている人物という事になる」
浩一 「じゃあ、犯人は俺たちと同じ学校だった可能性が?」
美鈴 「あぁ。十分にありえる」
浩一 「同じ学校か。つかさっていつも明るかったから、結構人気があったんだよな」
美鈴 「つかさは知ってなくても、一方的に相手から知られている場合もある」
浩一 「確かに。うん・・・とりあえずSNSでつかさと関わりのありそうな人物を調べてみる」
美鈴 「アタシも」
再びケータイに視線を戻す、浩一と美鈴。
青山 「つーか、この中の誰かが犯人じゃねぇの?」
浩一 美鈴 「え?」
沈黙。
浩一 「青山? 何言ってんだよ? そんな事ある訳ないだろ」
青山 「どうして?」
浩一 「どうしてって・・・だって、ずっと俺たち一緒にいたんだぞ」
青山 「それは、俺たちが犯人じゃない理由にはならねぇよな?」
浩一 「確かにそうだけど・・・」
青山 「おい、考えてもみろよ? こんな事、つかさと深く関わってる人間しかする訳ねぇ。だったとしたら外部の人間を疑うよりも、俺たちの中に犯人がいるって考えた方が自然だろ」
浩一 「けど・・・」
青山 「何だよ?」
浩一 「・・・」
美鈴 「浩一。悔しいけど、確かに青山の言う通りだ」
浩一 「美鈴」
美鈴 「青山。じゃあ、あんたはアタシ達の中に犯人がいるかどうか、調べるべきだって言いたいのか?」
青山 「当たり前だ。まずはそこからだろ」
浩一 「何、言ってんだよ二人とも。今回の件で、一番腹を立ててるのは俺たちだろ? つかさの名前を使って、こんな事をして一体、何になるっていうんだよ?」
青山 「それは犯人にしかわからないんじゃねぇの?」
美鈴 「(ため息をついて)本当はこんな事したくないんだけどな」
浩一 「美鈴? 何する気なんだよ?」
美鈴 「つかさのアカウントにこっちからメッセージを送る。それぞれケータイを見せ合った状態で」
浩一 「それって・・・」
美鈴 「あぁ、つまりメッセージが届いた奴が犯人だ」
青山 「なるほどな。分かり易くていい」
浩一 「俺はこんな事嫌だ・・・俺たち同士で疑い合うなんて」
青山 「何、ふざけた事言ってんだよ。この状況でやらないっていう選択は、そいつが犯人って事になるんだぞ」
浩一 「・・・」
青山 「どうすんだよ?」
浩一 「(仕方なくケータイを差し出す)」
ケータイを見せ合う一同。
美鈴 「準備はいいな?」
浩一 「あぁ」
美鈴 「じゃあ、アタシがつかさのアカウントにメッセージを送る。それから・・・」
青山 「ちょっと待て!」
美鈴 「なんだ?」
青山 「一人だけ送るのは不公平だ。イカサマされたら面倒だしな」
浩一 「イカサマって・・・」
青山 「全員で一斉に送る。これでどうだ?」
美鈴 「いいだろう」
青山 「浩一は?」
浩一 「・・・あぁ、大丈夫だ」
青山 「じゃあ、仕切り直しといこう」
美鈴 「・・・送るぞ」
一同、つかさのアカウントにメッセージを送る。
しかし、それぞれのケータイに受信メッセージは届かない
安堵の表情。
浩一 「よかった・・・」
美鈴 「アタシ達の中に犯人はいないって事か」
青山 「そうみたいだな」
美鈴 「どうだ、青山。これで気が済んだか?」
青山 「まぁ」
浩一 「けど、また振り出しか」
カバンを机に乗せる美鈴。
美鈴 「あぁ、誰が犯人かは結局わからないままだ」
浩一 「俺たちの中に犯人がいないとなると、やっぱり外部の人間って事になるよな」
美鈴 「外部か・・・アタシ達の学校でそんな怪しい奴いたかな」
浩一 「あ!」
青山 「何だよ?」
浩一 「もしかしたら・・・」
美鈴 「浩一、心当たりでもあるのか?」
浩一 「ほら、辰巳って覚えてないか!」
美鈴 「辰巳・・・どんな奴だ?」
浩一 「えっと、なんて説明したらいいかな・・・」
青山 「あーあの繋がり眉毛か」
浩一 「そう!」
美鈴 「繋がり眉毛?」
青山 「いつも授業中にトイレ行ってた」
美鈴 「あ! あいつか、思い出したぞ!」
青山 「で、その眉毛がどうしたんだよ?」
浩一 「中一の頃、つかさに告白したらしいんだ!」
青山 美鈴 「(同時に)何だって!」
浩一 「いや、俺も風の噂で聞いただけだから、本当かどうかは分からないけど」
青山 「あの眉毛、許さねぇ」
浩一 「青山?」
青山 「ぶち殺してやる。俺のつかさに手ぇ出しやがって・・・」
浩一、美鈴、じーっと青山を見つめる。
青山 「(視線を感じて)あ・・・」
浩一 「俺の・・・?」
青山 「いや、今のは・・・」
美鈴 「青山、お前やっぱりつかさの事が好きだったんだな」
青山 「(動揺して)は? す、好きじゃねぇし」
浩一 「嘘、下手だな・・・」
美鈴 「あぁ・・・」
青山 「とにかく、それでつかさはOKしたのかよ?」
浩一 「辰巳はフラれたって聞いたけど」
青山 「そうか、ざまぁみろ眉毛」
美鈴 「てか、浩一。今回の件とその繋がり眉毛に何の関係があるんだよ?」
浩一 「うん。今、思えばあの見た目といい行動といい、かなり怪しい奴だったなって。つかさにも告白してるから関わりもあるし」
美鈴 「けど、つかさに告白したからって、その眉毛が犯人だって限らないだろ」
浩一 「ほら、振られた腹いせにとかさ」
青山 「腹いせって・・・それ中一の頃の話だよな?」
浩一 「きっとものすごいショックを抱えて、今まで生きてきたんだよ。だから今回の犯行に及んだ。うん、そうに違いない」
美鈴 「・・・青山」
青山 「あぁ」
浩一 「どうかな? 俺の推理もなかなかありだと思うんだけど」
青山 美鈴「なしだ」
浩一 「え? 嘘?」
青山 「的外れにもほどがある」
美鈴 「浩一は想像力が著しく欠落してるからな。無理もない」
浩一 「いや、二人とも・・・そこまではっきり言わなくていいだろ」
いつの間にか10年前のようなやり取りになっている。
お互いを見つめて、なぜか笑いがこみ上げる一同。
美鈴 「ははっ・・・あー色々とアホすぎて急にどうでもよくなった。浩一のせいだぞ」
浩一 「え、俺のせいか?」
美鈴 「どうするんだよ、こんな状況なのに緊張感が吹き飛んでしまった。返せよ、緊張感」
浩一 「美鈴、無茶苦茶だな・・・」
和やかな空気。
突然、浩一に向き合う青山。
青山 「浩一」
浩一 「ん?」
青山 「悪かった」
浩一 「え? 急にどうしたんだよ?」
青山 「お前の事はとっくに許してた。俺もひどい事ばっか言ってたし、あれからずっと謝ろうって思ってたんだ」
浩一 「青山」
青山 「けど、つかさから連絡が来たり、こんな状況になっただろ? あの時の事を思い出したらイライラして、何つーか素直になれなかった。(深々と頭を下げて)許してくれ」
浩一 「いや、悪いのは俺なんだし。青山が怒るのも当然だ。だから、頭あげろって」
青山 「(さっと頭をあげて)そうか、わかった」
美鈴 「早っ!」
浩一 「おい」
青山 「冗談だって。まぁ、浩一そういう事だ」
浩一 「どういう事だよ」
青山 「(笑顔で)ははっ」
久しぶりの笑顔を二人に見せる青山。
美鈴と目を見合わす浩一。
浩一 「ありがとう」
青山 「おぅ。・・・まぁ、久しぶりにこうやって話すのもいいもんだな」
美鈴 「そうだな」
青山 「本当は馬鹿らしくて来るつもりはなかったんだ。ただ、お前らとの事はたまに思い出したりもしてたし、つかさが死んで色んな事があっただろ?」
浩一 「青山」
青山 「まぁ、きっかけはどうであれ、今日は仕事を早めに上がれてよかったよ」
浩一 「仕事ってやっぱり現場系なのか?」
青山 「あぁ、見てのとおりな。今は道路作ってる」
浩一 「道路! 凄いな」
青山 「ドロドロになりながら働くってのが、何か俺の性に合ってんだよ」
美鈴 「相変わらず男臭い奴だな」
青山 「まぁな。で、浩一は何してんだ?」
浩一 「何って?」
青山 「だから仕事だよ」
浩一 「あぁ、俺は介護士をやってる」
美鈴 「へぇ」
浩一 「まぁ、結構大変なんだけどな。お年寄りの世話をさせてもらうっていうのも」
青山 「けど、浩一らしくていいんじゃね?」
浩一 「そうか?」
美鈴 「自分の事を犠牲にしてでも、他人を一番に考えるお人好しには天職だと思うぞ」
浩一 「何か皮肉にしか聞こえないんだけど。てか、そういう美鈴はどうなんだよ?」
美鈴 「アタシ?」
浩一 「あぁ」
美鈴 「アタシは銀行で働いてる」
青山 「何でだろうな。札束を数えながら、ニヤニヤしてる美鈴が想像できる」
浩一 「あ、それわかるかも」
青山 「だろ?」
美鈴 「何がわかるかもだよ。まぁ、色々面倒臭いし、営業スマイルは徹底するようにしてるけど、別に札束数えたぐらいでニヤニヤなんてしないから」
浩一 「営業スマイル・・・何か今までの美鈴からは想像出来ないな」
美鈴 「何でだよ?」
青山 「まぁ、美鈴って昔っからクールで近寄り難いタイプだったからな」
浩一 「あと何でも完璧に見えるけど、意外に肝心なところでミスしたり」
美鈴 「おい・・・」
浩一 「ほら、修学旅行の時も財布忘れたりとかあっただろ」
青山 「あー懐かしいな」
美鈴 「やめろ。あの恐怖はもう思い出したくない」
青山 「大丈夫か、職場で孤立したりしてねぇか?」
美鈴 「余計なお世話だ。てか、中二で不良に覚醒したあんたも、あの時は孤立してただろ」
青山 「そうか?」
美鈴 「そうだよ。あんたが歩いたら、勝手に道が空いてたし」
青山 「あれは別に孤立じゃねぇだろ。何かよくわかんねぇけど、みんなが急に優しくなっただけだ」
美鈴 「・・・あんたって幸せ者だな」
青山 「おぅ」
机をまじまじと眺めている浩一。
美鈴 「どうした?」
浩一 「つかさの席って一番後ろだっけ?」
美鈴 「あぁ。この真ん中の席だ」
青山 「(真ん中の席を見て)あ! そうだよ、確かにここだ」
美鈴 「休み時間になったら、よく集まってたな」
浩一 「・・・何かさ、ふと思ったんだ」
青山 美鈴 「ん?」
浩一 「つかさが生きてたら、今頃こうやって色々な話が出来たんだろうなって・・・」
静まり返る一同。
美鈴 「アタシ達、中一の頃はまだ会ってたよな?」
青山 「あぁ、クラスはバラバラだったけど、誰も部活に入ってなかったし、時間も割とあったからな」
浩一 「放課後になったら、つかさが一緒に帰ろうって呼びに来てくれたっけ」
青山 「あいつ人の名前大声で叫ぶから、同じクラスの奴らに注目されて大変だったっつーの」
浩一 「俺もだよ。『浩一って、つかさちゃんと付き合ってんの?』とかってよく聞かれたし」
美鈴 「・・・いつも元気だったよな」
青山 「あぁ」
浩一 「誰にでも人当たりが良くて。仲間はずれになってる奴にも、自分から声をかけたりして」
美鈴 「・・・」
青山 「女子や教師からも人気があったな」
浩一 「みんな、多分だけど、つかさの事が好きだったんだ」
青山 「そうだな」
美鈴 「正直、アタシはつかさが眩しかったよ」
浩一 青山「え?」
美鈴 「あいつはアタシにないものを沢山持ってたから・・・だからだろうな。普段のつかさを知ってるから、中二で入院したって聞いた時は耳を疑った」
浩一 「あれは、何ていうか・・・驚いた」
青山 「俺たち大慌てで、すぐ見舞いに行ったんだよな」
美鈴 「あの時の事、覚えてるか?」
浩一 「あぁ」
青山 「あれはさすがに忘れねぇよ」
浩一 「心配してる俺達にケロッとした顔で、『何かあったの?』だって」
青山 「何か俺たちだけが盛り上がってて、馬鹿みたいだったな」
浩一 「病室なのを忘れて、ずっと笑ってた気がする」
美鈴 「けど、今だから思うんだ。あれは、つかさがアタシ達に気を使ってくれたんじゃないかって」
浩一 「そうだよな」
青山 「俺たち、いつから見舞いに行かなくなったんだろうな・・・」
浩一 美鈴 「・・・」
青山 「俺、あいつがあんな調子ですぐ退院できるって言ってたから、あんまり深く考えてなかったんだよ。だから、新しく出来たツレと馬鹿みたいに遊んでた」
美鈴 「アタシも塾に通うようになって、次第に見舞いにはいけなくなったな」
青山 「結局、つかさの事は浩一に全部押し付けちまってたって訳だ」
浩一 「そんな事ないって。たまたま俺が何もしてなかっただけだし」
青山 「なぁ、浩一」
浩一 「ん?」
青山 「蒸し返して悪いけど、浩一は直接つかさから病気の事聞いたんだろ?」
浩一 「あぁ」
青山 「その時の事。もう一度聞かせてくれよ」
浩一 「いいのか?」
青山 「今だったら、何か冷静に聞けると思うんだ」
美鈴 「アタシからも頼む」
浩一 「わかった・・・俺もしばらく見舞いに行けてない時期があって、久しぶりに行ったら、丁度つかさの部屋から医者が出て行くところだったんだ。それで病室に入ったら、つかさが子供みたいに泣いてた・・・初めて見たよ。あんなに悲しそうにつかさが泣くところ」
美鈴 「・・・」
青山 「・・・」
浩一 「その時に言われたんだ・・・あと一年しか生きられないって、浩一、どうしようって・・・俺、何も言えなかった・・・何より、つかさの口から聞いたその事実に、自分自身がショックで押しつぶされそうになった・・・一番辛かったのはつかさ本人なのに・・・」
美鈴 「浩一」
浩一 「大事な友達に、気の利いた言葉一つかけてやる事が出来ない自分が情けなかった・・・しばらくして、落ち着きを取り戻したつかさは、いつもの笑顔で俺に言ったんだ。 『みんなに心配かけたくないから、この事は絶対に言わないで欲しい』って」
青山 「あいつ・・」
浩一 「本当につかさと二度と会う事が出来なくなるなんて夢にも思わなかった・・・今でも二人には話すべきだったって後悔してる。本当にごめん・・・」
美鈴 「もういいって」
青山 「あぁ。俺がお前の立場でつかさから頼まれたら、同じような事をしてたかもしれないしな」
浩一 「青山」
青山 「ただ俺たちもその後、大喧嘩して、結局それっきりか・・・」
一同、沈黙。
青山 「あーやめだ! 大事な事だけど、何かこんな湿っぽいのは苦手なんだよな」
浩一 「悪い、俺が余計な事、言うから」
青山 「浩一のせいじゃねぇよ。あ、そうだ。せっかく集まったんだし他の話でもするか」
浩一 「何か本当に同窓会みたいになってるけど、犯人の事を忘れてないか?」
青山 「犯人?」
美鈴 「確かに、つい話し込んでしまってたな」
青山 「あーもういいんじゃね。それよりも、ここに酒でもあったら最高なんだけどな」
美鈴 「酒はない」
青山 「まじかー」
浩一 「教室に酒って・・・」
美鈴 「青山はやっぱり不良だな」
青山 「よーし、じゃあ気を取り直して、俺が校長のカツラの真相を、見事に暴き出した時の事を話してやろう」
浩一 「ははっ、そんな事あったな」
美鈴 「懐かしい」
青山 「あれは俺が小5の頃だった・・・」
その時、ケータイの呼び出し音が鳴る。
美鈴 「あ、アタシか」
ポケットからケータイを取り出そうとする美鈴。
しかし、呼び出し音は持っているケータイからでなく、机に置かれた美鈴のカバンの中から。
美鈴 「・・・」
カバンを開けてケータイの呼び出し音を止める美鈴。
静まり返る一同。
浩一 「美鈴・・・ケータイ・・・二つ持ってるのか?」
美鈴 「・・・まぁな」
ケータイをカバンに戻そうとする美鈴。
青山 「美鈴」
美鈴 「!」
青山 「今からもう一度、つかさのアカウントにメッセージを送る。だから、そのケータイを確認させろ」
美鈴 「・・・」
浩一 「青山、もういいんじゃないか? 俺たちの中に犯人はいない訳だし」
青山 「浩一、本気でそう思ってるのか?」
浩一 「それは・・・」
青山 「中途半端な優しさなんて、誰かが傷つくだけだ」
浩一 「・・・」
青山 「美鈴、ケータイを確認させろ」
美鈴 「・・・」
青山 「美鈴!」
美鈴 「・・・その必要はない」
浩一 「美鈴?」
青山 「どういう意味だよ?」
美鈴 「・・・」
浩一 「おぃ、美鈴」
美鈴 「・・・SNSの通知音は、オフにしていたのにな」
浩一 「え?」
美鈴 「・・・アタシはやっぱり肝心なところでツメが甘いらしい」
一同、沈黙。
浩一 「美鈴、嘘だよな?」
美鈴 「・・・」
浩一 「お前が犯人な訳ないよな?」
美鈴 「・・・」
浩一 「なぁ・・・美鈴」
美鈴 「・・・」
青山 「どうなんだよ、、美鈴」
美鈴 「アタシがつかさのアカウントを作って、あんた達にメッセージを送った」
浩一 「美鈴・・・」
青山 「ふざけんなよ・・・どういうつもりなんだ」
美鈴 「・・・」
青山 「おぃ、何とか言えよ」
突然、笑い出す美鈴。
美鈴 「悪かった、冗談だよ」
浩一 「冗談?」
美鈴 「何ていうか、久しぶりの再会だったからな。ちょっとしたサプライズってやつだ」
青山 「本気で言ってるのか?」
美鈴 「あぁ」
青山 「それで、つかさの名前を使ったっていうのか・・・」
浩一 「青山」
青山 「こんな事して、俺たちに嘘ついて、ここまで呼び出して。お前は一体、何がしてぇんだよ」
美鈴 「何がしたい?」
青山 「そうだ」
美鈴 「わからない・・・」
青山 「何がわからないんだ!」
美鈴 「あんた達にはわからない!!」
驚く、浩一と青山。
浩一 「美鈴・・・」
美鈴 「いつも周りに誰かがいる、あんた達にはわからないんだ・・・」
浩一 「わからないって、どういう事だ?」
美鈴 「アタシはずっと一人だった・・・それが当たり前だった。誰も信用しない、誰にも頼らない。群れているのは弱いからだ。そうやって、ずっと自分に言い聞かせてきた。だからクラスで浮いていても、アタシは平気だったんだ」
青山 浩一 「・・・」
美鈴 「けど、そんなアタシにつかさは話しかけてきた。無視しても、嫌がるような事を言っても、休み時間になれば必ずアタシの机までやってきた。・・・いつからだろうか、誰にも心を開かなかったアタシは、少しずつつかさに自分の事を話すようになっていた。そして、あんた達に出会った・・・」
浩一 「美鈴・・・」
美鈴 「あんた達は本当のアタシを知らない。だから、全部を話しても理解してもらえない・・・」
青山 「そうか・・・じゃあ仕方ねぇ」
目を見合わせる青山と浩一。
浩一 「俺たちが悪い」
青山 「あぁ」
美鈴 「え?」
浩一 「確かに、俺たちは美鈴の事を理解してなかった。けど理解できなかったらそれで終わりなのか? みんな人間なんだ、理解できないぐらい違ったって当然だろ?」
美鈴 「・・・」
浩一 「俺たちは、そんな事を考えてた美鈴に気づいてやれなかった」
青山 「まぁ、それはツレとして失格だって事だ」
美鈴 「あんた達、何言ってんだよ・・・」
浩一 「だから、美鈴。教えてくれ。何でこんな事をしたのか。理解できなくてもいい。もっと美鈴の事が知りたいんだ」
美鈴 「知りたいって・・・」
青山 「何つーか・・・美鈴。お前にも色々あって、今回の事もちゃんとした理由があったんだろ? もう怒鳴ったりなんかしないから、俺にも教えてくれ」
美鈴 「・・・」
浩一 「美鈴」
美鈴 「何だよそれ。何でそんなに優しいんだよ・・・」
浩一 青山 「え?」
美鈴 「アタシは最低な事をした。つかさのふりをして、あんた達に連絡して。友達だから? もっと教えて欲しい? ありえないだろ!」
青山 「何で美鈴はそう思うんだ?」
美鈴 「何でって・・・アタシはあんた達を、つかさを裏切ったんだ! そんな人間を信用出来るはずがない。許されるはずがない!」
浩一 「美鈴」
美鈴 「・・・」
浩一 「それを決めるのは美鈴じゃないだろ?」
美鈴 「え?」
青山 「俺たちが、それでも許すって言ったら、それでいいんだよ」
美鈴 「けど、そんな事・・・」
浩一 「あの頃は楽しかったよな?」
美鈴 「・・・」
浩一 「みんなで授業受けて、みんなで遊んで、みんなでくだらない話して」
美鈴 「・・・」
浩一 「だから、美鈴。バラバラになったけど、もう一度、俺たちと友達になって欲しい」
美鈴 「・・・」
青山 「美鈴?」
泣き崩れる美鈴。
美鈴 「あたしは・・・あんた達とずっと一緒にいたかった!!」
浩一 青山 「・・・」
美鈴 「ずっとずっと、四人でいたかった! あの時間が楽しくて仕方がなかった!! ・・・自分を認めてくれる人と過ごす時間が、こんなにも大切だったなんて初めて知ったんだ。だから怖かった・・・それを失うのが怖かった。つかさが亡くなって、もう立ち上がることも出来なくなって、その上、あんた達とも疎遠になって・・・アタシはどうすればいいのかわからなくなった・・・」
浩一 「美鈴・・・」
美鈴 「時間が解決してくれた部分も大きかった。けど、大人になってもあの頃を超える充実感を得ることは出来なかった。だから、ずっとあんた達と会いたいって思ってた。けど、あんな喧嘩をして別れたんだ。いくら、10年後に会う約束をしてたとしても、もう一度集まれるはずがない。ましてや、ただアタシから連絡したくらいじゃ、気まずくなってるあんた達がここに来るなんてありえない・・・」
青山 「だから・・・」
美鈴 「つかさから連絡があれば、あんた達は来るんじゃないか、そう思った・・・アタシは過去に縛られているんだ・・・あれからもう10年も経つのに、気がつけばあの頃の事を思い返している・・・ありえないだろ? 重い女だと思うだろ? 哀れだと思うだろ!?」
浩一 「そんな事ない・・・」
美鈴 「アタシは最低の人間だ」
浩一 「そんな事ない!」
美鈴 「そんな事あるさ! 浩一、あたしはつかさを憎んでたんだ!」
浩一 「え?」
美鈴 「最初からつかさがいなければ、つかさが死ななければ、アタシ達はずっと一緒にいれたんじゃないかって・・・ははっ、最低なんだよ・・・一番にアタシの事を認めてくれたつかさの事をこんな風に考えてしまう自分が惨めで・・・情けなくて・・・大嫌いだ! アタシが・・・アタシがつかさの代わりに死んだ方がよかった!!」
浩一 「ふざけるなっ!!!」
青山 「浩一・・・」
浩一 「お前が自分の事を最低だって言ったら、そんな最低な人間の事を好きな俺たちはどうしたいいんだよ!!」
美鈴 「え・・・」
浩一 「俺はずっと思ってた。つかさが亡くなった後も、またみんなと過ごしたいって。けど、自分のせいであんな事になったんだ。そう考えると怖くて、行動する勇気がなかった・・・」
青山 「俺も似たようなもんだ。結局逃げてたんだよ・・・」
浩一 「美鈴には本当に感謝してる。だから、これ以上、自分の事を悪く言わないでくれ」
美鈴 「・・・」
一同、沈黙。
青山 「おい・・・」
青山、黒板に近づき、
青山 「あれって・・・あの頃から書いてあったのか?」
黒板の『卒業おめでとう』の下に、小さく書かれている文字を見つける一同。
浩一 「『みんなへ。私の机を調べて!』これは・・・」
青山 「つかさからのメッセージか」
美鈴 「つかさ・・・つかさっ!」
美鈴、つかさの机の中を調べる。
そこには一通の手紙が。
手紙を手に取る美鈴。
青山 「手紙?」
浩一 「つかさのやつ、卒業してからこの教室に来てたんだ」
美鈴 「・・・」
浩一 「美鈴、お前が読むんだ」
美鈴 「アタシには読む資格なんて・・・」
無言で美鈴を見つめる浩一、青山。
意を決して、手紙を読み始める美鈴。
美鈴 「みんなへ・・・」
美鈴、口パク。
途中から録音しているつかさのセリフが流れる。
つかさの思いに胸を打たれる一同。
つかさ 語り(録音)「みんなへ ありきたりなセリフになるかもだけど、この手紙を読んでくれる時には、私はみんなと一緒にはいないと思います。何ていうか、中学で直接この手紙を渡すのは少し違うなって思って、こんな事をしました。みんながもしこの教室に揃ってくれたら、この手紙を読んでくれたら、私も一緒にここにいれるのかなって、そんな想像を膨らませています。卒業してから10年が経ってるんだよね? 元気にやってますか? 大人は楽しいですか? 本当は私もみんなと同じように年をとって、同窓会でお酒なんか飲めたら最高だなって思います。あ、ちなみにこの手紙は教室で書いてます。やっぱり、ここから見える。海はいつだって綺麗です。またみんなで夏祭りに行きたいな。何か色々書きたい事が多すぎるけど、今は一番伝えたい事を書きます。浩一・・・いつも優しくて、何か困ってたら助けてくれる浩一が大好きです。ずっとそのままでいてください。青山・・・少し照れくさいけど、強くて頼りになる青山が大好きです。デートにでも付き合ってやればよかったな。笑 美鈴・・・私はいつも美鈴に怒られてばかりだったね。けど、それが嬉しかった。恥ずかしくて言えなかったけど、こんな私の性格を受け止めてくれる美鈴が大好きです。もっとずっと一緒にいたかった・・・本当にごめんね。なんか先生みたいだけど、最後に私からみんなに宿題があります。・・・大人になってもずっと仲良しでいてください。喧嘩してもまた仲直りしてください。幸せになってください。そして、ほんのちょっとでいいから、たまにでいいから、私の事も思い出してもらえると嬉しいです。みんな、ずっとずっと大好きです。今まで本当にありがとう。 つかさ」
美鈴 「つかさ・・・」
言葉を失う一同。
誰も話し出そうとしない。
その時、教室の外から花火の音が聞こえる。
青山 「花火だ・・・」
浩一 「・・・なぁ、今からみんなで夏祭りに行かないか?」
青山 「そうだな、つかさのリクエストには応えないとな」
浩一 「美鈴」
美鈴 「え?」
青山 「どうするんだ?」
浩一と青山をしっかりと見つめる美鈴。
美鈴 「あぁ、行こう・・・みんなで行こう!」
それぞれ、教室を後にする。
美鈴、ふと立ち止まり、最後に教室の光景を目に焼き付ける。
美鈴 語り(録音)「いつまでも過去を生きている気がしていた。時間が経っても環境が変わっても、気がつけばあの頃を思い出している。楽しかったあの頃を。ずっとこの時間が続けばいいと思っていたあの頃を。過去を生きる、それが今この一瞬を否定する事だとしたら・・・アタシはちゃんと前に進めているのだろうか・・・・・・いや、過去に生きてもいいのかもしれない。過去を大切に思うからこそ、今を生きる事ができる。前に進めているかどうか、それを決めるのは結局、自分自身なのだから・・・」
何かに気付く美鈴。
満面の笑みで教室を後にする。
エンド
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