「お母さんと夢作りの魔女」

〈登場人物〉

松前 百合子(41)   

松前 日向  (17)       

シェルミー        

リッカ               

コーネル              

バレッタ          

エリーゼ               

セシル                

オルロワーナ       

アリシア       

           

 ◎キンソン終了→明転(F・I)

 ☆松前家 食卓 夕方

 上手からやってくるお母さん。ソファーに座る。

 そこへ下手から日向が入ってくる。ケータイをいじっている。

お母さん「おかえり」

 無視をして上手にある自分の部屋に向かう日向。

お母さん「日向」

日向  「・・・」

お母さん「日向!」

日向  「(立ち止まり)何?」

お母さん「えっと・・・もうすぐ夕飯出来るから、少しだけ待って。今日は、日向の大好きなパスタを作ったんだけど・・・」

日向  「いらない」

お母さん「え?」 

日向  「だから、いらないから」

お母さん「・・・あぁ、ひょっとして、もう友達と食べてきたとか?」

日向  「違う」

お母さん「じゃあ、どうして?」

日向  「何だっていいでしょ」

お母さん「そっか・・・でも、お母さん、教えて欲しいな」

日向  「あのさ」

お母さん「ん?」

日向  「二人で食事して、何か意味がある?」

お母さん「日向・・・」

日向  「・・・」

 日向、上手へとはける。

 ソファーに座るお母さん。

 ◎暗転(F・O)→M→オープニング ダンスパート

 ☆ワルプルギスの城 客人の間 

 倒れているお母さん、起き上がる。目の前には魔女達が揃っている。                        

お母さん「ん・・・あれ、ここは・・・」

オルロ 「目覚めたようですね」 

お母さん「(オルロワーナ達を見て)あ・・・」

オルロ 「(笑って)私たちが恐ろしいですか?」

お母さん「えっと・・・」

オルロ 「まぁ、無理もありません、誰でも自分と違うもの、理解できないものには恐怖するものです」

お母さん「あの・・・私は松前百合子と言います。あなた達は・・・誰ですか?」

セシル 「あら、わたくしたちが誰かも知らないようですわ」

バレッタ「まぁ、仕方ないよ。ずっと、人間界にいたんだからねぇ」

お母さん「・・・あの・・・えっと・・・」

 一同、それぞれ会話をして騒がしくなる。

オルロ 「静粛に!」

 一同、沈黙。

オルロ 「客人の問いに答えましょう、私たちが誰かと聞きましたね」

お母さん「はい」

オルロ 「魔女です」

お母さん「魔女? 魔女って魔法を使ったり、ほうきで空を飛んだりする、あの魔女ですか?」

オルロ 「はい。しかし、私たちはあなたが思っている魔女とは、少し違います」

お母さん「どういう事ですか?」

オルロ 「夢を作るからです」

お母さん「夢?」

エリーゼ「うちらは色んな夢を作って、それを人間に見せてるんや」

セシル 「楽しい夢、悲しい夢、不思議な夢、時には悪夢だって作る事もありましてよ」

お母さん「え? じゃあ、私達が普段寝ている時に見る夢って、全部皆さんが?」

バレッタ「そういう事さ。まぁ、普通の人間はそれを知る事はないけどねぇ」

リッカ 「凄くやりがいのあるお仕事なんです。作るのは大変だけど、その後の達成感とか、人間の反応見るのも楽しいし」

コーネル「つまり、日々の研究と実験の積み重ねってとこね」

シェルミ「魔女にも色々あるのよ☆」

お母さん「(シェルミーを見て考え込む)あの・・・一つ質問したい事があるんですけど・・・」

オルロ 「どうぞ」

お母さん「魔女って・・・男でもなれるんですか?」

一同  「・・・」 

シェルミ「オルロちゃん、この人間失礼よ!」 

エリーゼ「まぁまぁ、実際、男やからしゃーないやん」

シェルミ「男じゃないわ。オカマよ! オ・カ・マ!!」

エリーゼ「わかった、わかった」

お母さん「あの!」

一同  「(お母さんに注目)」

オルロ 「どうされました?」

お母さん「これって、もしかして・・・私の夢の中ですよね?」

 一同、沈黙。

オルロ 「なぜ、そう思いますか?」
お母さん「だって、こんな状況、普通ではありえないですし」

オルロ 「なるほど、半分正解で半分はずれです」

お母さん「え? それってどういう・・・」

オルロ 「担当直入に言います。松前百合子さん、私はあなたに呪いの魔法をかけています」

お母さん「え?」

オルロ 「こうやって直接あなたと話をするには、この方法しかありませんでした。許して下さい」

お母さん「ちょっと待って下さい。呪いの魔法って・・・私、どうなってるんですか?」

オルロ 「・・・人間は普段夢を見ます。正確には先ほどお話しした通り、私たち魔女が夢を作り、見せいるからです。しかし、今のあなたの状態は違います。現実の世界で眠ると、夢を見る事もなく、強制的に、私たち魔女の世界に来てしまうのです」

お母さん「眠るって・・・あの私、毎晩眠るんですけど・・・」

オルロ 「私の魔法がかかっている間は、毎晩こちらの世界に来ていただく事になるでしょう」

お母さん「そんな・・・」

オルロ 「申し訳ありません」

お母さん「どうしてこんな事を・・・目的はなんですか?」

オルロ 「あなたに頼みがあります」

お母さん「頼み?」

オルロ 「私たちの夢作りを手伝って欲しいのです」

お母さん「え・・・」

バレッタ「今の私たちに物語を考えるのは、少し厳しいからねぇ」

お母さん「・・・夢作りの手伝いって、物語を考えるって事ですか?」

オルロ 「はい」

お母さん「物語・・・ですか」

シェルミ「魔女は人間を信頼してるのよ☆」

お母さん「(シェルミーを見て考え込む)あの・・・一つ質問したい事があるんですけど・・・」

オルロ 「どうぞ」

お母さん「魔女って・・・オカマでもなれるんですか?」

一同  「・・・」

シェルミ「オルロちゃん、この人間失礼よ!」

エリーゼ「せやけど、男じゃなくて、今ちゃんとオカマって言うてはったで」

シェルミ「じゃあ・・・オッケーよ」

エリーゼ「オッケーなんかい!」

オルロ 「松前百合子さん」

お母さん「はい」

オルロ 「私たちと夢を作ってくれませんか?」           

お母さん「えっと・・・」

 ◎暗転②(F・O)→ブリッジM

    ☆松前家 食卓 朝

 眠っているお母さん、突然目覚め。

お母さん「しばらく、考えさせて下さい!」

 出かけようとする日向と目が合う。   

 ◎M(C・O)

日向  「は?」

お母さん「え?」

日向  「(呆れて)・・・」 

お母さん「あの、違うの日向・・・ちょっと・・・あ、いってらっしゃーい・・・」

 日向、無視をして上手へとはけていく。

お母さん「それにしても変な夢だったな。(笑って)ソファーで眠っちゃうぐらいだから、きっと疲れてるのね」

 お母さん、上手へとはけていく。

 ◎照明変化 

 ☆ワルプルギスの城 廊下

 オルロワーナ、セシル、バレッタが下手からやってくる。

オルロ 「・・・それで、正夢計画の調子はどうですか?」

バレッタ「ずっとコーネルに任せているのですが、相変わらず、変わった様子はないようです」

オルロ 「そうですか・・・」

バレッタ「本当に私たちに正夢なんて作れるのかねぇ」

セシル 「バレッタ、何を弱気になっているんですの!?」

バレッタ「私は正直、不安なんだよ。これだけ長い間、研究を続けているのに、魔女が今まで正夢を作ったという話は一度も聞いた事がない」

セシル 「確かに、ただの伝説だって可能性も考えられますわ。けど、成功すれば永遠の命が手に入るんですのよ」 

バレッタ「セシルは本当に永遠の命にこだわるんだねぇ」

セシル 「だって、わたくしはずっと生きていたい・・・その為ならどんな事だって出来ますわ」

オルロ バレッタ「・・・」

 上手からフードを被ったアリシアがやってくる。

アリシア「オルロワーナ様、松前百合子の資料が出来ました」

オルロ 「ありがとうございます。皆さん、あきらめてはいけません。永遠の命・・・それは私たち魔女の希望です。だからこそ、人間の力を借りてでも成功させなければなりません。必ず、正夢を作りましょう」

セシル バレッタ 「はい」

 オルロワーナ、何も言わず上手へとはける。

 三人もそのあとについていく。

 ◎照明変化 

 ☆ワルプルギスの城 廊下。

 上手からやってくる、お母さんとシェルミー。           

お母さん「ちょっと待って下さい! 一体、どういう事ですか!」 

シェルミ「どういう事って言われても」

お母さん「私、また昨日と同じ夢を見てるんですけど」

シェルミ「だから、さっきから夢じゃないって言ってるじゃない」

お母さん「夢です」

シェルミ「夢じゃないの」

お母さん「夢です!」 

シェルミ「夢じゃないの!」

 二人、息を荒げる。

シェルミ「もうっ、強情な子ね。こうなったら、必殺オカマ奥義よ」

お母さん「え・・・ちょっと」

 お母さんに近づくシェルミー。シェルミー、お母さんの頬をつねる。

お母さん「い、痛い! 何するんですか!」

シェルミ「ちゃんと痛みがあるでしょ」

お母さん「あ・・・夢じゃない!」

シェルミ「そゆ事。この世界はあなた達が住む人間界と同じで、実際に存在するし、ゆりちゃんは今この瞬間、ちゃんとここで生きているのよ」

お母さん「そうなんだ・・・あの、この世界が実際に存在するとして、私はいつまでここにいればいいんでしょう?」

シェルミ「それは、オルロちゃん次第。いえ、ゆりちゃん次第かしらね」

お母さん「私ですか?」

シェルミ「だって、昨日、夢作りに協力して欲しいって言われてたじゃない」

お母さん「確かに言われました。物語を考えて欲しいって・・・」

シェルミ「ゆりちゃんが協力してくれて、無事に夢を作る事が出来れば、呪いの魔法は解いてもらえるんじゃない」

お母さん「そうですか・・・」

シェルミ「で、どうするつもりなの?」

お母さん「どうするって・・・私が元の状態に戻るには、結局、協力するしか方法がないですよね?」

シェルミ「まぁ、そうね」

お母さん「(ため息をつく)」

シェルミ「どうしたの?」

お母さん「私が協力するとしてですよ」

シェルミ「うん」

お母さん「そもそも、夢の作り方だってよくわからないのに、物語を考える事なんて出来るのかなって・・・」

シェルミ「そんな事を気にしてたの? じゃあ心配ないわ、コーネルのとこに行きなさい」

お母さん「コーネル?」

シェルミ「彼女なら夢作りについて色々と教えてくれるはずよ」

お母さん「(よくわからず)はい・・・」

シェルミ「じゃあ、私の案内はここまで」

お母さん「え? 行っちゃうんですか?」

シェルミ「オカマは色々と忙しいの。じゃあねー」

お母さん「ちょっと、シェルミーさん!」

 シェルミー、上手へとはけていく。

 お母さん、ため息をついて、下手へとはける。

 ◎照明変化→下手エリア明かり 

 ☆ワルプルギスの城 研究の間

 下手からやってくるコーネルとリッカ。

 コーネルは飴が入ったバスケット、リッカはフリップボードを持っている。

リッカ 「また今日も正夢、作れなかったですね」

コーネル「そうね。けど、簡単に作れないからこそ、研究のやりがいがあるんじゃない?」

リッカ 「確かに」

 下手からやってくるお母さん。

お母さん「あの・・・すみません」

リッカ 「あぁ、さっきの人間さん」

コーネル「いらっしゃい、よく来たわね」

お母さん「どうも」 

コーネル「シェルミーから話は聞いてるわ」

お母さん「え?」

コーネル「じゃあ、早速始めましょう。リッカ」

リッカ 「はい」

コーネル「せーの・・・」

コーネル リッカ「『コーネルとリッカの夢の作り方講座!!』」

 ◎M IN    

リッカ 「今日の生徒は、人間の松前百合子さんです」

お母さん「あ、どうも・・・よろしくお願いします」

コーネル「この授業を受ければ、あなたはすぐに夢作りをマスターできるわ。安心して」

お母さん「はい」

コーネル「夢を作るには四つの工程があるの」

お母さん「四つですか?」

 リッカ、大きなフリップボードを掲げる。

 フリップボードには文字と、可愛らしいイラストが描かれている。    

リッカ 「その一、物語を考える」

コーネル「これは説明しなくても大丈夫?」

お母さん「多分ですけど」

コーネル「夢作りの基本中の基本ね。物語が中途半端だと何も上手くいかない。オルロワーナ様がわざわざあなたをここに連れてきたのも、それだけ重要だからって事」

お母さん「はい」

コーネル「では、次」

 フリップボードを変えるリッカ。

リッカ 「その二、夢を撮影する」

お母さん「撮影? 夢ってそんな事するんですか?」

コーネル「夢は人間界の映画のようなもの」

お母さん「映画ですか?」

コーネル「魔法のほうきで音を集め、魔法の鏡で光を調整し、そして、最後は魔法の杖で撮影する」

お母さん「何だかおもしろいですね」

コーネル「なかなか大変な作業だけど、これが一番やりがいがあるの」

お母さん「へぇ」

コーネル「では、次」

 フリップボードを変えるリッカ。

リッカ 「その三、撮影した夢を物体化する」

 コーネル、飴がたくさん入ったバスケットをお母さんに見せる。

コーネル「これが私たちの作った夢よ」

お母さん「え?」

コーネル「なかなか名作も多いの。これは好きな人と仲良くなる夢、こっちは空を自由に飛ぶ夢。あとは・・・」

お母さん「これって、ただの飴じゃないんですか?」

コーネル「魔法の杖で一度撮影した夢は、こうして一旦、飴の形に変化するの。夢を誰かに渡す時や、量産

 する時に、この形の方が便利だから」

お母さん「凄い、実用的ですね」

コーネル「では、次」   

 フリップボードを変えるリッカ。

リッカ 「その四、物体化した夢を、夢ナベで三分間グツグツと煮込む」 

お母さん「煮込むんですか!? それに夢ナベって何ですか?」

コーネル「あそこにある黒いナベの事よ(夢ナベを指差し)夢ナベは、人間界とこの世界を繋いでいるの。この飴を煮込めば、溶けた夢が人間界へと流れ出して、あなた達は夢を見るって訳」

お母さん「そうだったんですね」

コーネル「・・・せーの」

コーネル リッカ「『以上、コーネルとリッカの夢の作り方講座でしたー!!』」         

コーネル「どう、理解できた?」

お母さん「はい。わかりやすかったです」

コーネル「よかった、あなたが名作を生み出してくれる事を、期待しているわ」

お母さん「頑張ってみます。あの、最後に一つだけ教えてもらってもいいですか?」

コーネル「何?」

お母さん「・・・どうして魔女は人間の為に夢を作るんですか?」

リッカ 「人間の為にっていうより、全て私たち自身の為なんですよ」

お母さん「え?」

コーネル「この城に集まる魔女たちには共通する目的があるの。それは永遠の命を手にいれる事」

お母さん「永遠の命?」

リッカ 「古くからの言い伝えがあるんです。人間に夢を見せ続け、正夢を作る事に成功すれば、私たちは永遠の命を手にいれる事ができるって」

お母さん「それって、死なない体になるって事ですか?」

コーネル「そうよ。人間のあなたにもわかるでしょ。永遠の命を手にいれるという事が、どれほど魅力的なのか」

お母さん「えっと・・・私は・・・」

リッカ 「本当に憧れますね」

コーネル「永遠の命を手に入れる事が出来たなら、私はずっと色んな研究をし続けたい・・・」

リッカ 「私もずっと生きていたいです」

お母さん「・・・」

リッカ 「どうしました?」

お母さん「さっき言ってた、正夢を作るって、どういう事ですか?」

コーネル「そのままの意味よ。私たちが作った夢が人間界で実際に起きるって事」

お母さん「・・・そんな事が可能なんですか?」

コーネル「可能かどうかはわからない。けど私たちは研究を続けて、正夢を必ず作る。だって、それが自分達の為だもの」

リッカ 「はい」

お母さん「そうですか・・・」

 ◎SE→暗転③(F・O)→ブリッジM→上段エリア明かり

 ☆ワルプルギスの城 最上階    

 お母さん、舞台奥からやってくる。       

お母さん「(ため息をついて)知らない事が多すぎて、頭がパンクしそう・・・」

 周りを眺めて。

 ◎M IN 

お母さん「凄い・・・見た事もない景色。雲でほとんど下が見えないけど、このお城、空に浮いてるんだ・・・ここが違う世界で、現実の私は今も眠ってるなんて、本当に信じられない・・・」 

 そこへ、フードを被ったアリシアがやってくる。お母さんには気づいていない。

 お母さん、アリシアに気づくが、後ろ姿で顔がよく見えない。近づいて声をかける。

お母さん「素敵な場所ですね。景色が凄くて圧倒されました」        

アリシア「そうですね。私も悩み事があると、よくここへ来るんです」

 フードをとり振り返るアリシア。その容姿は日向とそっくり。

お母さん「え?」

 固まるお母さん。

お母さん「日向・・・どうして日向がここにいるの?」

アリシア「(笑顔で)私の名前は・・・アリシアです」

 そのまま、舞台奥へとはけていくアリシア。

お母さん「え? ちょっと待って・・・」

 お母さん、後を追い、舞台奥へとはけていく。 

 ◎暗転④(F・O)→ブリッジM(ひっぱり)

 ☆松本家 朝 上手からやってくるお母さん。

 しばらくして、日向が上手からやってくる。

お母さん「おはよう。・・・日向。あの、昨日、夢とかみたりした?」

日向  「は? 何、言ってんの?」

お母さん「えっと、何て説明したらいいのかな・・・実は昨日・・・」

日向  「あのさ、遅刻するんだけど」

お母さん「あ、ごめん・・・行ってらっしゃい!」 

 下手へはけていく日向。

 ため息をついて上手へとはけていくお母さん。

 ◎照明変化 →上手エリア明かり 

 ☆ワルプルギスの城 人間の間

 巨大な空間、本棚が無数に並んでいる。上手からやってくるエリーゼ。

エリーゼ「あー今日も忙しいなー・・・忙しいからこそ・・・ちょっとだけ、サボろかな」

 上手から、お母さんがやってくる。

お母さん「あの・・・すみません」             

エリーゼ「あー最近ここに来た人間かいなー、いらっしゃい」

お母さん「あ、どうも。お邪魔してます」

エリーゼ「自己紹介がまだやったね、ウチはエリーゼ」

お母さん「松前百合子です」

エリーゼ「よろしゅー頼んます。どうや? ぎょーさん、本があるやろ?」

お母さん「はい、こんなに沢山の本、初めて見ました。エリーゼさんは、ここで何をされてるんですか?」

エリーゼ「まぁ、本の管理やな」

お母さん「管理ですか?」

エリーゼ「そう。ここは貸出もしてるから、色んな魔女からも人気があって、結構忙しいんよ」

お母さん「いつも、一人でお仕事をされてるんですか?」

エリーゼ「いいや。本間はもう一人、ウチの助手がいてるんやけど、今は外に出てるみたいやわ」

お母さん「そうなんですね」

エリーゼ「あ! 本、好きに見てくれていいで」

お母さん「ありがとうございます」

 お母さん、本棚まで近づき驚く。

お母さん「あの・・・エリーゼさん、すみません!」

エリーゼ「何や?」

お母さん「・・・本のタイトル、全部人の名前なんですけど」

エリーゼ「当たり前や。ここは人間の間やからな」

お母さん「人間の間?」

エリーゼ「そう、ここには全人類の本が全て揃っとる」

お母さん「全人類・・・そんな・・・内容は・・・どんな事が書かれてるんですか?」

エリーゼ「その人が生まれてから、死ぬまでの一生や。ウチら夢作りの魔女は、その情報を元に夢を作るから、貴重な資料なんよ」

お母さん「そうなんですね」

エリーゼ「あとなーここでは最近、『記憶の水晶玉』ってのが使えるようになってんけど、その水晶玉は、色んな人の過去の様子を観る事が出来るねん。これまたリアルでおもろいんやでー」

 上手から、オルロワーナがやってくる。

エリーゼ「あ、オルロワーナ様・・・」

オルロ 「エリーゼさん、すみません。少し、その方と二人で話をさせてもらいませんか?」

エリーゼ「わかりました」

 エリーゼ、下手へとはける。

オルロ 「松前百合子さん。返事を聞かせて頂いてもいいですか?」

お母さん「その前に確認させて下さい」

オルロ 「なんでしょう?」

お母さん「私が協力すれば、呪いの魔法を解いてくれると約束してくれますか?」

オルロ 「はい、今まで通り、元の生活に戻れる事をお約束します」

お母さん「・・・じゃあ、お手伝いします」

オルロ 「そうですか。ありがとうございます」

お母さん「いえ、私にどこまで出来るのかわかりませんが」

オルロ 「期待しています。では早速ですが、今、私たちは悪夢をテーマに撮影をしています。まずは見学でも構いません。明日、、私たちと一緒に来てください」

お母さん「わかりました」

オルロ 「では」

 オルロ、上手へとはける。

お母さん「あぁ・・・引き受けちゃった・・・」 

 ◎暗転⑤(F・O)→ブリッジM          

 ☆ワルプルギスの城 撮影の間

 上手にはお母さんとバレッタ。バレッタは杖を持って指示を出している。下手には

 シェルミーがへんてこな踊りを踊っている。

シェルミ「チンタラーカンタラーチンタラーカンタラーーほほいのほいっ!」

 ロケ地が雪山に変わる。

 ◎照明変化→SE  吹雪

シェルミ「どうかしら、雪山よ。身も心もカッチカチ。オカマもコールドよ」

バレッタ「(くしゃみをして)うーん、違う」

シェルミ「じゃあ、移動するわ」

 シェルミー、再びへんてこな踊りを踊る。

シェルミ「チンタラーカンタラーチンタラーカンタラーーほほいのほいっ!」

 ロケ地が火山に変わる。

 ◎照明変化→SE マグマ

シェルミ「どうかしら、火山よ。身も心もアッツアツ。オカマもホットよ」

バレッタ「暑いねぇ・・・うーん、違う」

シェルミ「再び、移動するわ」

 シェルミー、再びへんてこな踊りを踊る。

シェルミ「チンタラーカンタラーチンタラーカンタラーーほほいのほいっ!」

 ロケ地が樹海に変わる。

 ◎照明変化→SE 風、カラス、ハエなど

シェルミ「どうかしら、森よ。森っていうか、もはや樹海! かなりデンジャーよ」

バレッタ「うーん・・・よし、ロケ地オッケー!」

シェルミ「(男に豹変して)よっしゃー、ばっちこーい!!(オカマに戻り)ゆりちゃん、どうだったかしら?」

お母さん「凄いですね、何もない真っ白な部屋だったのに、魔法で場所が変わるなんて」

シェルミ「自然の精霊の力を借りた黒魔法よ」

お母さん「へーさすがシェルミーさんですね」

バレッタ「次、音、照明行ってみよう」

リッカ コーネル「はーい」

 リッカとコーネルが上手からやってくる。リッカはほうきを集音マイクのように使い、

 コーネルは魔法の鏡で光を調整している。 

リッカ 「音、オッケーです」

コーネル「光も問題ないわ」

 バレッタ、杖を持ち、撮影の準備をする。

バレッタ「よーし、じゃあ本番行くよ。よーい、スタート!」

 ◎M IN

 真っ黒な衣装に身を包んだセシルがやってくる。不気味に追いかける演技をする。           

セシル 「きえぇぇええぇぇぇえぇぇぇえぇ!!!!!」 

バレッタ「はい、カット!」

セシル 「ふーっ」

 セシル、衣装を脱ぐ。

お母さん「あれ、セシルさんだったんですね」

セシル 「みんな、お疲れ様ですわ」

リッカ 「今日も迫真の演技でしたね」

セシル 「まぁ、わたくしはベテラン女優ですもの。この程度のシーン、朝飯前ですわ」

お母さん「お疲れ様です」

セシル 「どうも」

シェルミ「いいシーンが撮れたわ。私のロケ地のおかげね」

セシル 「わたくしの演技のおかげですわ」

シェルミ「ロケ地よ」

セシル 「演技ですわ」

 言い争っているシェルミーとセシル。

お母さん「バレッタさん、これってどういう夢なんですか?」

バレッタ「森の中で、正体不明の存在に、追いかけられる悪夢かな」

お母さん「あーなるほど。確かに追いかけられる夢は、今までよく見ました」

バレッタ「まぁ、定番だからね」

 バレッタ、一同に声をかける。      

バレッタ「はい、みんなお疲れ様!」

一同  「お疲れ様でーす」

バレッタ「今日の撮影は人間の・・・えっと名前はなんていったかな?」

お母さん「松前百合子です」

バレッタ「まつ・・・ま・・・ん?」

シェルミ「ゆりちゃんよ」

バレッタ「えー、人間のゆりちゃんに見学に来てもらった訳だけど。じゃあ、何か感想を言ってくれるかい」

お母さん「か、感想ですか?」

バレッタ「あぁ」

お母さん「わかりました」

 一同、お母さんに注目する。     

お母さん「あの・・・悪夢って事は、人間を怖がらせる事が目的なんですよね?」

バレッタ「まぁ、そうだね」

お母さん「じゃあ・・・怖いっていう面では少し弱いと思います」

一同  「・・・」

セシル 「あなたは、わたくし達の夢にケチをつけるんですのね」

お母さん「えっと、そういうつもりはないんですけど」

セシル 「じゃあ、どういうつもりですの!」

コーネル「ちょっとセシル、落ち着きなさい」

セシル 「こんな事を言われて、落ち着ける訳ないですわ!」

バレッタ「まぁまぁ、貴重な人間の意見なんだ。冷静に聞こうじゃないか」

セシル 「・・・バレッタが言うなら仕方ないですわ」

バレッタ「で、怖さが弱いって事だけど、例えばゆりちゃんが悪夢を作るならどうするんだい」

お母さん「今、思いついただけなんですけど」

バレッタ「言ってごらん」

お母さん「最初は、主人公の周りに知り合いや友達、家族がたくさんいるんです。けど一人、また一人って、目の前から姿を消していきます。そして、最終的に主人公は一人ぼっちになり、そのまま孤独に一生を終えていくんです。これが私が考える悪夢です」

バレッタ「なるほどね」         

お母さん「人間って、一人では生きられないと思うんです。だから、こんな悪夢だったら、怖くて仕方ないのかなって。少なくとも私はこんな夢をみたらすごく怖いです」

バレッタ「みんなはどう思う?」

シェルミ「人間のゆりちゃんが言うんだから、そうだと思うわ」

リッカ 「私も怖いと思います」

コーネル「色々と想像が膨らむ設定ね。孤独の怖さが私にはわからないけど、実に興味深い」

セシル 「・・・」

バレッタ「セシルは?」

セシル 「・・・わたくしも悪くないと思いますわ」

バレッタ「決まりだね」

お母さん「え?」

バレッタ「ゆりちゃんの物語で、夢を作り直そう」

お母さん「そんな・・・いいんですか?」

バレッタ「夢作りには、新しいアイディアが必要なんだよ」

お母さん「バレッタさん・・・」

バレッタ「さぁ、みんな忙しくなるよ。さっそく準備だ」

一同  「はい」

 一同、上手へとはけていく。      

 アリシアが下手からやってる。

アリシア「あの!」

お母さん「あなたは・・・ひな・・・いや、アリシアちゃんだっけ?」

アリシア「えっと・・・はい、そうです」

お母さん「昨日は自己紹介もせずに帰ってごめんなさい。私は松前百合子です」

アリシア「百合子さん、よろしくお願いします・・・撮影だったんですか?」

お母さん「そうなの。アリシアちゃんは撮影には参加しなかったのね?」

アリシア「私は、普段別の仕事をしてるんで」

お母さん「別の仕事?」
アリシア「はい。人間の間っていう所で、本の管理をしているんです」

お母さん「あ、もしかしてエリーゼさんが言ってた助手って、アリシアちゃんの事かな?」

アリシア「多分、そうだと思います」 

お母さん「そっかー」

アリシア「あの、ずっと気になってたんですけど、聞いてもいいですか?」

お母さん「何?」

アリシア「初めて会った時、どうして私の事を他の人と勘違いしたんですか? 確か、日向って」

お母さん「私の娘の名前が日向って言って、アリシアちゃんとそっくりなの」

アリシア「私とですか?」

お母さん「会ってみたら驚くと思うよ」

アリシア「そうなんですね、会ってみたいな。どんな人なんですか?」

お母さん「そうね・・・素直で優しい子かな。小さい頃は、本当にパスタが好きで、よく作って欲しいって頼まれたっけ」

アリシア「(自然と笑顔になっている、お母さんを見て)ねぇ、百合子さん」

お母さん「何?」

アリシア「日向ちゃんの事・・・愛してますか?」

お母さん「もちろん」

アリシア「どうしてですか?」

お母さん「どうしてって言われたら難しいけど、強いて言うなら・・・家族だからかな」

アリシア「そうですか、何だか羨ましいです・・・」

お母さん「羨ましいって何が?」

アリシア「家族がいる事が」

お母さん「それは魔女も同じじゃない」

アリシア「いいえ」

お母さん「え?」

アリシア「私達魔女に、家族はいません。魔女は生まれた時から一人です。誰の助けも借りず・・・いや、正確には借りる事が出来ずに、そのまま大人になっていきます」

お母さん「助けを借りる事が出来ないって? 魔女も最初は小さな赤ん坊なんでしょ? 他の大人の魔女が育ててくれるんじゃないの?」

アリシア「残念ながらそれはありえません。あ、でも安心してください。赤ん坊の魔女は生まれながらに、わずかな魔法の力を宿してます。そのおかげで、一人でも生きていく事が出来るんです」

お母さん「・・・」

アリシア「どうしました?」

お母さん「・・・どうしてなの?」

アリシア「え?」

お母さん「どうして魔女は、赤ん坊を見捨てる事が出来るの?」

アリシア「それは・・・」

お母さん「だって、そんなの悲しいよ・・・」

アリシア「私達、魔女は自分の事にしか興味がありません。自分を犠牲にしてまで誰かの事を思ったり、助けたり、愛したり、っていう感情が欠落してるんです。それが・・・私達、魔女です」

お母さん「あなたもそうなの?」

アリシア「魔女ですから」

お母さん「そっか・・・」                    

アリシア「・・・あ、すみません! 私、仕事がまだ残っていたのを思い出しました!」

お母さん「え、そうなの!?」

アリシア「あぁ・・・またエリーゼさんに叱られる」

お母さん「私の事はいいから、ほらっ、急いで」

アリシア「はい、失礼します!」

 アリシア、上手へとはけていく。

お母さん「家族がいないか・・・魔女って、幸せなのかな?」

 ◎暗転⑥→ブリッジM

 ☆ワルプルギスの城 宴の間

 お母さん、リッカ、バレッタ、シェルミー、セシル。 それぞれ飲み物を持ち、パーティが行われている。騒いでる一同。            

バレッタ「それでは、今日の主役のゆりちゃんから挨拶だよ」

お母さん「(緊張して)はい・・・えっと・・・皆さん、私の考えた物語に付き合って下さり、本当にありがとうございました」

セシル 「百合子、堅苦しいですわ」

リッカ 「もっとリラックスしてください」

お母さん「すみません。とりあえず・・・夢の完成おめでとうございます。乾杯!」

一同  「乾杯!」

リッカ 「あ、けどオルロワーナ様に内緒でパーティなんかして大丈夫ですか?」

シェルミ「大丈夫、大丈夫。そんな事よりゆりちゃん、本当にいい作品ができたわね」

お母さん「はい」

セシル 「まぁ、私の演技のおかげですわ」

お母さん「はい、セシルさんのおかげです」

セシル 「・・・べ、別にそんな事を言われても、嬉しくないですわ」

シェルミ「あら、あなたもしかして照れてるの?」

セシル 「お黙り」

バレッタ「おやおや、ゆりちゃん、全然飲んでないねぇ」

お母さん「すみません、いただきます。(お酒を飲み)・・・あ、美味しい。これはワインですか?」       

バレッタ「黒トカゲの生き血だよ」

お母さん「(むせて)そんもの飲ませないでください!」

バレッタ「おやおや、人間は好き嫌いが激しいねぇ」

 一同、笑ってなごやかな雰囲気。 

リッカ 「あ、オルロワーナ様が来ました!」

 一同、グラスをシェルミーに渡し、

シェルミ「チンタラホイ」

 シェルミー魔法をかけるとグラスが消える。 

 そこへコーネル、オルロワーナがやってくる。

オルロ 「皆さん、聞いてください。コーネルの長きに渡る研究の結果・・・遂に正夢を作る事が出来ました」

セシル 「それって・・・」    

オルロ 「私たち夢作りの魔女は、永遠の命を手にいれる事が出来ます」

一同  「やったー!!」

 歓声と拍手に包まれる。

 一同、盛り上がっている中、下手からエリーゼとアリシアがやってくる。

 エリーゼは本を持っている。

アリシア「お疲れ様です」

エリゼ 「オルロワーナ様、お持ちしました」

オルロ 「ありがとうございます」

 一同、注目して再び静かになる。

オルロ 「松前百合子さん、本当にありがとうございます。あなたが夢作りに協力してくれたお陰で、私たちの今までの苦労が報われました」

お母さん「いえ、私は何も・・・」

オルロ 「正夢になったのは、皆さんが最近作り続けていた、あの悪夢です」

お母さん「え?」

 お母さん以外、歓声をあげ拍手をする。

オルロ 「ただ、正夢にするにはあまりにも膨大な魔力が必要なので、全人類の中から、十人だけランダムで選ばせて頂きました」

エリーゼ「これがその十人の名前やわ。この人らはある意味、ラッキーやな」

 エリーゼ、バレッタに名前が書かれた本を渡す。

バレッタ「なるほどねぇ」

 魔女達は本を覗き込むように見ている。

 バレッタ、セシルに本を手渡す。           

お母さん「正夢・・・私たちが作った悪夢が・・・現実になるんですか?」

シェルミ「そうよ、それだけこの作品が認められたって事。よかったわね、ゆりちゃん」

お母さん「(急に怖くなり)・・・」 

シェルミ「ゆりちゃん?」

セシル 「はい、百合子」

 お母さん、セシルから本を受け取る。            

 まじまじと本を見つめ、名前を確認するお母さん。 

お母さん「(絶望して)そんな・・・どうして・・・」

 ◎M IN

 お母さん、力なくその場に座り込む。

シェルミ「ゆりちゃん! どうしたの?」

お母さん「私の・・・私の娘・・・松前日向の名前が・・・書かれています・・・」

一同  「・・・」

お母さん「オルロワーナさん・・・」

オルロ 「何ですか?」

お母さん「娘の未来は・・・この悪夢どおりになるんですか?」

オルロ 「そうです」

お母さん「もう変える事は出来ないんですか?」

オルロ 「はい」

お母さん「・・・」

シェルミ「ゆりちゃん、大丈夫よ。正夢をみる人間に選ばれた事はとっても名誉のある事なのよ・・・」

お母さん「何が名誉ですか!!」

一同  「(驚き)」

お母さん「娘は一人ぼっちになるんですよ! 誰からも必要とされず、一生孤独に生きていく事になるんですよ! 娘は自分の父親を失って、今でも十分傷ついているんです。本人もきっと辛くて、苦しくて、それでも立ち直らないといけない思って、ずっと頑張ってるんです。だから・・・だから、これ以上、あの娘に辛い思いをさせないで下さい!」

シェルミ「ゆりちゃん・・・」   

セシル 「辛いのはお察ししますわ・・・けど、一人でだって、十分生きていけ・・・」

お母さん「人間は魔女と違うんです! 自分の子供を見捨てる事なんて、私には出来ません!」

一同  「・・・」

お母さん「オルロワーナさん、どうしても無理ですか?」

オルロ 「残念ですが」

お母さん「じゃあ、私、ずっとこの世界にいます」      

一同  「え?」

シェルミ「ゆりちゃん、何言ってるの?」

お母さん「夢の物語を作る魔女がいないんですよね、じゃあ、私がずっとここで夢を作り続けます」

オルロ 「私たちにとっては有難い話です。ただ、そんな事をすれば、あなたは現実世界で永遠に眠り続ける事になるんですよ」

お母さん「それでも、構いません」

オルロ 「・・・困った人ですね」

お母さん「その代わり、娘に悪夢を見せないで下さい。正夢になんてしないで下さい!」

オルロ 「私たちは永遠の命を手に入れます。その事に変更はありません」

お母さん「そんな・・・」

オルロ 「それに、この悪夢はあなたが考えたんです」

           オルロワーナ、上手へとはける。

お母さん「誰か・・・何とか言って下さい! 私の娘を、助けて下さい!」

 一同、見て見みぬふりをして、はけていく。

 一人残され、泣き崩れるお母さん。

お母さん「お願い・・・日向を・・・一人にしないで・・・」

 ◎暗転⑦(F・O)→ブリッジM→センターサス 

 センターサスの中にいる日向。          

日向   「私、松前日向は、魔女から呪いの魔法をかけられていた・・・言葉にすると本当にバカみたい・・・けどこれは本当の話。毎晩、魔女の世界に連れて来られ、人間の事を詳しく聞かれた。夢を作る為の参考にしたいから協力して欲しいって。初めは嫌だったけど、エリーゼさんという魔女が結構いい人で、色んな事を話している内に仲良くなって、何だか抵抗する気にもならなかった。そして、何日か経って、私の心境に不思議な変化が起きた。それは、この世界での生活も、意外に悪くないと思うようになった事。学校にも、家にも居場所がなかった私にとって、この変な魔女の世界が、唯一の逃げ場所のように思えた。だから、私は松前日向という名前を偽り、代わりに魔女の『アリシア』という名前をオルロワーナ様からもらった・・・」          

 日向、下手へとはける。

 ☆ワルプルギスの城 人間の間 

 エリーゼがいる。しばらくしてやってくる、アリシア。

アリシア「お疲れ様です」

エリーゼ「お疲れ様・・・なぁ、アリシア」

アリシア「何ですか?」

エリーゼ「あのゆりこさんって人、あんたのお母さんちゃうんか?」

アリシア「・・・どうしてそう思うんですか?」

エリーゼ「あんたのその様子見てたら、何となくわかるわ」

アリシア「エリーゼさんには隠し事出来ないですね」

エリーゼ「せやで、こんだけウチと一緒にいたら無理やわ。せやけど、全人類の中から、あんたが選ばれるってえらい確率やな。びっくりしたわ」

アリシア「はい、私も驚きました・・・」

エリーゼ「お母さん、必死になって止めてはったな」         

アリシア「そうですね・・・」

エリーゼ「何するかわからへんからって理由で、今、地下に閉じ込められてるんやろ」

アリシア「・・・」

エリーゼ「どうするつもりなん?」

アリシア「今の私にはどうする事も・・・」

エリーゼ「(ため息をついて)もう何やろなー」

アリシア「何ですか?」

エリーゼ「あんた人間なんやろ? 人間の家族っていうのは、そんな冷めてるもんなんか?」

アリシア「さぁ、他の家族の事、よく知らないですし」

エリーゼ「あのな。ゆりこさんは自分の娘の前であんだけ、オルロワーナ様に意見したんやで。それやのにあんたは・・・」

アリシア「・・・あの人は娘の前だって思ってないですよ」

エリーゼ「はい?」

アリシア「私をこの世界の魔女アリシアだって勘違いしてるんです」

エリーゼ「え? ちょっと待って、何でそんな事になってるん?」

アリシア「少し言いづらいんですけど・・・」

エリーゼ「何や?」

アリシア「私・・・あの人がまさかここに来ると思ってなくて、それで初めて会った時に咄嗟に嘘を・・・」

エリーゼ「はぁ? って事はやで、自分は松前日向じゃなく、別人のアリシアって言ったって事かいな?」

アリシア「そうです」

エリーゼ「で、お母さんは今でも騙されてはんのか?」

アリシア「はい」

エリーゼ「(ため息をついて)人間の考える事はようわからんわ。てか、何でそこまでして、自分の事を隠したかったん?」

アリシア「それは・・・あんまり関わりたくないっていうか・・・正直、私とあの人はうまくいってないんです」

エリーゼ「それってどういう事?」

アリシア「実は、半年前に病気で父親が亡くなったんです」

エリーゼ「・・・そうやったんや」

アリシア「私は昔から両親が大好きな子供だったんで、そのショックが大きくて、なかなか親の死を受け入れる事が出来ませんでした。急に色んな事がどうでもよくなってしまって、どこか冷めた性格になってしまったんです」

エリーゼ「うん・・・」

アリシア「学校でも突然変わってしまった、私の態度が気に入らないのか、仲が良かったはずの友達からいじめられるようになりました」

エリーゼ「・・・」

アリシア「私は、もう誰も信じられなくなっていたんです。あの人は、気を使っていつでも優しくしてくれます。けど、それも嘘なんじゃないかって疑うようになって・・・家族なのに私は、あの人の事を信用出来ずにいて・・でも、信用出来ない自分自身がもっと惨めで・・・嫌いで・・・」

エリーゼ「・・・」

アリシア「すみません、何か変な話しちゃいました・・・」

エリーゼ「ええよ」

 エリーゼ、下手へとはけていく。

アリシア「どこへ行くんですか?」

エリーゼ「ちょっと待っとき」

 しばらくして、戻ってくるエリーゼ、手には水晶玉を持っている。

アリシア「エリーゼさん?」

エリーゼ「ウチは魔女やから、そういう家族の事はようわからん。せやけど、答えをだすのはまだ早いんちゃうかな?」

 エリーゼ水晶玉をアリシアに渡す。 

アリシア「これって、記憶の水晶玉・・・」

エリーゼ「自分の目と耳で、ちゃんとお母さんと向き合ってみ」

アリシア「・・・はい」

エリーゼ「じゃあ、またな」

 エリーゼ、再び下手へとはけていく。

 アリシア、水晶玉を覗き込むと、映像が浮かび上がり始める。

 そこには赤ん坊の日向と、両親が写っている。

アリシア「お父さん・・・」

 ◎照明変化→SE 赤ん坊の泣き声→M IN

お父さん「よく頑張ったね」

お母さん「ううん・・・頑張ったのはこの子だから」

お父さん「名前、思いついた?」

お母さん「うん、けど本当に私がつけていいの?」

お父さん「もちろん」

お母さん「この子が私のお腹の中にいた時から、ずっとつけたかった名前なんだけど」

お父さん「うん」

お母さん「・・・日向」

お父さん「松前日向か・・・いい名前だ。けどどうして、この名前にしたんだい?」

お母さん「日向は、いつも明るく元気で、周りにの人に暖かな光を与えるの。だから、どんな時でも一人ぼっちにはならない」

お父さん「だから日向か」

お母さん「うん」

お父さん「これから先、どんな子に育つだろう?」

お母さん「頭のいい子になるかな」

お父さん「優しい子になるかも」

お母さん「きっと、綺麗な子になるわ」

お父さん「君に似てるだろうな」

お母さん「彼氏とか連れてきたりして」

お父さん「それは、あんまり考えたくないけど」

お母さん「そう?」

 二人の笑い声。

お父さん「僕はいつも三人でご飯を食べたい」

お母さん「そうね」

お父さん「それで、今日あった事を、みんなで笑いながら話すんだ」

お母さん「どんな話ができるか楽しみ」

お父さん「あぁ、幸せな家庭にしていこう」

お母さん「うん」

 水晶玉を見つめながら、涙を流すアリシア。映像が消えていく。

 涙を拭いて、何かに気づくアリシア。         

アリシア「私はアリシアなんかじゃない・・・私の名前は・・・日向・・・松前日向!」

 ◎暗転⑧→ブリッジM

 ☆ワルプルギスの城 審議の間

 シェルミー、コーネル、リッカ、バレッタ、セシル、エリーゼがいる。

コーネル「まさか、こんな事になるとは思わなかったわ・・・」 

リッカ 「オルロワーナ様はゆりこさんをどうするつもりなんでしょう?」

セシル 「ずっと、ここにいてもらえばいいんですのよ」

一同(バレッタ以外)「え?」

セシル 「だって、わたくしたちは助かるし、百合子もそれを望んでるんでしょ?」

シェルミ「セシル、本気で言ってるの?」

セシル 「当然ですわ、わたくし達は魔女ですのよ。自分の事だけを考えていればいい。誰かの為に行動するなんて、最初から不可能なんですもの」

シェルミ「けど・・・」

バレッタ「セシルの言うように、ゆりちゃんにいてもらった方が、夢作りははかどる。わざわざ、手に入れた獲物を逃す事はないよ」

リッカ 「獲物・・・ですか」

バレッタ「あぁ、そうさ」

一同  「・・・」

バレッタ「おやおや、私は、何か間違った事を言ってるかい?」

コーネル「いえ、バレッタの言う事は正しいわ。結局、魔女は魔女だもの」

エリーゼ「あんたら言いたい放題やな」

セシル 「エリーゼ、あなたこそ何か言いたい事があるのなら、はっきり言ってくださるかしら?」

エリーゼ「別に」

 下手からアリシア息を切らしてがやってくる。

アリシア「あの・・・皆さん、聞いて下さい」

エリーゼ「アリシア」

セシル 「どうしたんですの?」

アリシア「・・・今まで黙ってたんですけど、私、あの松前百合子の娘なんです。さっきの正夢の対象は私なんです」

一同  「・・・」 

セシル 「それはお気の毒ですわ。けど、永遠の命のために、人間のあなたには犠牲になってもらわないと困るんですの」         

リッカ 「セシルさん・・・」

コーネル「残酷かもしれないけど、仕方のない事ね」

バレッタ「で、どうするつもりだい? まさか、母親と同じように正夢を中止して下さいとでも言うんじゃないだろうね?」

アリシア「そのつもりはありません。もちろん、皆さんが欲しがっている永遠の命の事も」

セシル 「じゃあ、何がしたいんですの?」

アリシア「松前百合子を一緒に助けて下さい」

シェルミ「アリシアちゃん、あなた本気で言ってるの?」

アリシア「はい」

シェルミ「それはつまり、オルロワーナ様を裏切るって事になるのよ」

アリシア「わかってます」

シェルミ「じゃあどうして?」

アリシア「家族だからです」

 アリシア、再び頭を下げて。

アリシア「私はどうなっても構いません。正夢でも何でも受け入れます。お願いします、あの人を・・・母を助けて下さい!」

一同  「・・・」

バレッタ「・・・負けたよ」

セシル 「バレッタ?」

バレッタ「私は今、不思議な気分なんだ。心の中で今までになかったものが動きだそうとしている。それは、魔女としては失格なのかもしれないねぇ」

セシル 「・・・バレッタ、何をしようとしているんですの?」

バレッタ「私はゆりちゃんを助けに行く。魔女の誇りも、オルロワーナ様の信頼も、全てを捨ててもいい覚悟があるものは、私についてきな」

セシル 「バレッタ!」

シェルミ「私もゆりちゃんを助けるわ。だって、あの子はいい子なの。あの子の望みを叶えてあげたい」

コーネル「私もお供するわ」

セシル 「コーネル、あなたまで!」

リッカ 「コーネルさんが行くなら、私も行きます」

エリーゼ「みんなやっぱおもろいな。ウチももちろん、ついていくで」

アリシア「セシルさん・・・」

セシル 「どうやら、わたくしだけが悪者のようですわ。あなた達、もう一度よく考えなさい! オルロワーナ様を裏切れば、永遠の命どころか、魔女としても生きていけるのかわからないのよ」

一同  「・・・」

バレッタ「アリシア」

アリシア「はい」

バレッタ「行こう。ゆりちゃんの所へ」

アリシア「・・・ありがとうございます!」

バレッタ「急ぐよ」

一同(セシル以外)「はい」

 一同、下手へはけていく。

コーネル「ちょっと、待ちなさい! ・・・オルロワーナ様に報告ですわ」

 セシル、上手へとはけていく。

 ◎照明変化

 ☆ワルプルギス城 地下牢

 上手からやってくるお母さん。閉じ込められている。

お母さん「私・・・何やってるんだろ・・・」

 下手からやってくるシェルミー。

シェルミ「ゆりちゃん!」

お母さん「シェルミーさん!」

シェルミ「助けに来たわよ! 本当に無茶しちゃって」

お母さん「すみません、ありがとうございます」

シェルミ「扉に鍵がかかっているのね」

お母さん「そうなんです」

シェルミ「ばっちこーい」

 力で扉をこじあけようとするシェルミ。

シェルミ「ぐぐぐぐぐ・・・」

お母さん「シェルミーさん、頑張って」

 そこへ、下手からやってくるリッカ、エリーゼ、コーネル、バレッタ。

リッカ 「いました!」

バレッタ「おやおや、ここにいたのかい」

コーネル「エリーゼの言ってた方向と真逆ね」

エリーゼ「そないに怒らんでもええやん」

お母さん「皆さん、どうして・・・」

バレッタ「話は後だ・・・おや、シェルミーどうしたんだい?」

シェルミ「この扉、恐ろしく硬いの。オカマの力でもビクともしないわ」

リッカ 「じゃあ、私の魔法で」

 ◎SE  風の魔法

 リッカ、魔法を唱えるが効果なし。

エリーゼ「ウチが行くわ」

   ◎SE 水の魔法

   エリーゼ、魔法を唱えるが効果なし。

コーネル「私が行くわ」

 ◎SE 火の魔法

 コーネル、魔法を唱えるが効果なし。

バレッタ「やれやれ、私の出番って訳だねぇ」

 ◎SE 雷の魔法

 バレッタ、魔法を唱えるが効果なし。

一同  「(落ち込む)」

お母さん「あー・・・大丈夫です。この扉はかなり、高度な魔法で作られてるんですよ。だから、皆さんの力不足とかのせいじゃありません」  

 そこへ、アリシア下手からやってくる。

アリシア「あれ、何かあったんですか?」

一同  「・・・」

お母さん「今、皆さん、傷ついてる最中なの」

アリシア「そうなんですね」

 アリシア、すたすたと扉の元へ。

 鍵を取り出し、開ける。

 ◎SE 鍵の解鍵

アリシア「百合子さん、もう大丈夫です」

一同  「(目を疑い)えーーーーーーーーーっ!」

アリシア「どうしたんですか?」

エリーゼ「アリシア、それはせこいわ」

コーネル「本当よ、私たちがどれほどプライドをへし折られたと思っているの」

シェルミ「私も腕がへし折れそうだったわ」

リッカ 「あーっ、何か無駄に気合いれてた私たちが恥ずかしい」

バレッタ「そもそも、私たちに助けを求めなくてもよかったんじゃないのかい・・・」

アリシア「いえ、そんな事は・・・」

エリーゼ「てか、そんな鍵、なんで持ってるん」

アリシア「来る途中で拝借してきたんです」

リッカ 「拝借? どこからですか?」

アリシア「オルロワーナ様の部屋から」

コーネル「あなた・・・」

シェルミ「意外に大胆」

バレッタ「若さだねぇ」

アリシア「さぁ、百合子さん。行きましょう」

お母さん「行くって?」

アリシア「オルロワーナ様のところです」

お母さん「・・・うん。あ、ちょっと待って」

バレッタ「どうしたんだい?」

お母さん「セシルさんはどこにいるんですか?」

一同  「・・・」

 そこへ、上手からやってくるセシル。

セシル 「わたくしの名前をお呼びになって?」                

一同  「セシル!(リッカとアリシアはセシルさん!)」

セシル 「わかりません・・・どうしてあなた達は、そこまでしてその人間を助けるんですの?」

お母さん「え?」

セシル 「百合子・・・あなたはわたくしを認めてくれた。それがすごく嬉しかった。けど、オルロワーナ様の邪魔をするというのなら話は別。永遠の命の為に、ここは通しませんわ」

お母さん「セシルさん・・・」

バレッタ「セシル、お前も私たちと同じように、ずっと、近くでゆりちゃんの事を見ていた。それに、これだけ仲良くなったじゃないか。何も感じないのかい?」

セシル 「さぁ?」

シェルミ「もうっ、いい加減、目を覚ますのよ」

セシル 「目を覚ます? (笑って)目を覚ますのはあなた達の方ですわ」 

バレッタ「・・・もう話をしても無駄なようだね。アリシア」

アリシア「はい」

バレッタ「ゆりちゃんと一緒に、先に行きな」

アリシア「でも!」

コーネル「ここは私達が何とかするわ」

リッカ 「オルワーナ様と会ってきて下さい」

シェルミ「頑張るのよ」

エリーゼ「アリシア」

アリシア「・・・エリーゼさん」

エリーゼ「後悔したらあかんで、一発かましてこい!」 

アリシア「はい・・・百合子さん、行きましょう」

お母さん「・・・うん」

セシル 「逃がしませんわ」

 ◎SE 二人の魔法 

セシル 「ぐわっ!」

エリーゼ「若い奴が必死で動こうとしてるねん。邪魔すんなや」

シェルミ「オカマを舐めると、痛い目に合うわよ」

バレッタ「今だ、急ぎな!」

アリシア お母さん「はい」

 二人、上手へと走っていく。

セシル 「あなた達・・・いいわ・・・わたくしの魔法を見せてあげる」

 ◎暗転⑪→ブリッジM

 ☆ワルプルギス城 最上階

 空を眺めているオルロワーナ。

オルロ 「・・・」 

 奥からやってくる日向とお母さん。

オルロ 「来ましたか・・・地下牢からは出られたんですね」

お母さん「はい」

アリシア「オルロワーナ様」

オルロ 「アリシア、あなたが魔女の名前を欲しいと言ってくれた事、嬉しかったです。しかし、あなたは人間。魔女ではない。今から私が言う事を、あなたは自由に決めて下さい」

オルロ 「はい」

お母さん「・・・」

オルロ 「取引をしましょう」

お母さん「取引?」

オルロ 「あなた達に免じて今回の正夢を、人間界に反映させないと約束しましょう」

お母さん「本当ですか?」

オルロ 「ただし条件があります」

お母さん「条件?」

オルロ 「どちらか一人がこの世界に残り、私たちの夢作りに協力する事」

アリシア「え? それっていつまでですか?」

オルロ 「永久にです」

アリシア「そんな・・・」              

オルロ 「少しだけ時間を差し上げます。どちらが元の世界に戻り、どちらがここに残るか、二人で話をしてください」

 去っていくオルロワーナ。残される二人。

日向  「・・・」

お母さん「・・・」

日向  「あの・・・私はアリシアじゃない・・・私は、日向なの・・・」                  

お母さん「うん」

日向  「え?」

お母さん「気づいてた」

日向  「嘘・・・いつから?」

お母さん「初めて会った時から」

日向  「どうして?」

お母さん「私は・・・日向の事を、誰よりも知ってるつもりだよ」

日向  「何か・・・ずるい」

お母さん「日向。あなたは元の世界に戻って。ここには私が残る」

日向  「絶対、嫌」

お母さん「どうして」

日向  「どうしても。嫌だよ、私、そんなの」

お母さん「わがまま言わないで」

日向  「わがままじゃない。だって、結局そんなの一人になるのと一緒じゃん・・・」

お母さん「日向・・・」

二人  「(沈黙)」

お母さん「じゃあ・・・」

 お母さん、日向に近づき、小声で何かを話す。

 何かを理解した日向。

日向  「わかった」

 オルロワーナが戻ってくる。 

オルロ 「考えはまとまりましたか?」

お母さん 日向「はい」

オルロ 「では、聞かせて下さい」

お母さん「どちらも選べません」

オルロ 「そうですか・・・ただ、それは、答えにはなって・・・」        

日向  「私たち二人とも、この世界に残ります」

オルロ 「二人とも?」

お母さん「はい」

オルロ 「理由を聞かせてもらいましょう」

日向  「どちらかだけが元の世界に戻っても、意味はありません」

お母さん「私たちは家族です。例え違う世界にいても、私たち二人が離れなければ、何も怖くはないんです・・・だから、二人とも残ります」

オルロ 「本当にそれでいいんですね?」

二人  「はい」

オルロ 「だそうですよ、皆さん?」

二人  「え?」

 ◎M IN

 他の魔女達「おめでとう」と言い、拍手をして、現れる。

 そこにはコーネルの姿も。

お母さん「これって・・・どういう事ですか?」

日向  「意味がわかんないんですけど・・・」

オルロ 「あなた達を試させてもらいました」

お母さん「試す?」

オルロ 「これは、全て私たちの台本の筋書きです」

日向  「え? ちょっと待って、どういう事?」

お母さん「もしかして・・・私たち、騙されてたんですか?」

オルロ 「申し訳ありません」

二人  「え!!!!?????」

お母さん「一体、どこからですか?」

オルロ 「全部です」

日向  「全部? じゃあ、永遠の命が手に入るとか、正夢を作るとか、えっと、魔女に家族がいなくて感情が欠落してるとか・・・他にも何か色々・・・え、そんな事も全部ですか?」

オルロ 「はい。魔女の演技もなかなかのものだったでしょう?」

日向  「そんなぁ」

お母さん「・・・さすがに夢を作っているのは本当ですよね?」

オルロ 「私たちは魔女です。魔法は使えますが、夢を作る事は出来ません」

お母さん「そうなんですか・・・」

日向  「・・・せっかく魔女の事、勉強したのに」

オルロ 「でも、人間の本や、記憶の水晶玉なんかは本物ですよ」

日向  「何か、もうどっちでもいいです」

お母さん「どうしてこんな事を?」

オルロ 「今回はあなた達のような・・・つまり、親子の関係があまりよくない家族を修復させる事が目的でした」

二人  「え?」

オルロ 「私たちの仕事は、人間に魔女の世界へ来てもらい、何かを得て、また帰ってもらう。いわば、魔女とは、この世界で人間の心をサポートする、観光案内人のようなものなのです」

日向  「心をサポート・・・確かに、ここに来てから、色々と心境に変化はあったかも」

お母さん「私もあります」

オルロ 「実感がおありで何よりです」

お母さん「そうだったんですね・・・けど、どうして私たちが選ばれたんですか?」

オルロ 「魔女の世界は、天国や地獄といった、死後の世界と密接に関わっています。今回の依頼は、あなた達の家族・・・亡くなった、達也さんからです」

お母さん「え?」

日向  「お父さんから・・・」

オルロ 「はい」

オルロ 「二人の事をとても心配されていました」

二人  「(胸にこみ上げるものがあって)」

お母さん「ずっと見てくれてたんだね・・・」

日向  「お父さん・・・」

お母さん「日向」

日向  「ん?」

お母さん「帰ろう。私たちの家に」

日向  「うん」

オルロ 「もうすぐ、朝日が顔を出します。その時には、あなた達はもう元の世界へと帰っているでしょう」

お母さん「そうですか」

日向  「ここへ来る事は、もうないですよね?」

オルロ 「ご安心下さい。呪いの魔法は解いていますから」

日向  「よかった」

オルロ 「お気をつけてお帰り下さい」

二人  「ありがとうございました」

オルロ 「お幸せに・・・あ、もうそろそろですよ」

お母さん「みんなともお別れだね」

日向  「うん」

二人  「(手を振って)ありがとうー」

 他の魔女達も手を振り、別れの言葉を投げかける。

 ◎暗転⑫(F・O)

 ☆松前家 朝

 下手からやってくる、お母さん。続いて日向。

 目が合う二人。どこか気まずい。 

お母さん「あの・・・えっと・・・」

日向  「今日の夕飯」

お母さん「え?」

日向  「パスタが食べたいな・・・お母さん」

お母さん「うん・・・一緒に食べよう」

 二人、自然と抱擁を交わす。

 ◎暗転⑬(F・O)

 

 エンド

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