「太郎と玉手箱」

浦島太郎

亀吉

シンデレラ

白雪姫

タッチ(不思議な三匹の子豚達より 三男)

タッチのお母さん(不思議な三匹の子豚より 三男のお母さん)

ガヤ(不思議な三匹の子豚達より おおかみ)

サルのおばさん(不思議な三匹の子豚達より サルの店主)

 浜辺、下手から浦島太郎が玉手箱を持って登場。しばらく舞台をふらふらと

 行ったり来たり。その内、中央で力が抜けたように座り込む。

浦島太郎  「もう駄目だ…」

 途方に暮れて海を眺めている浦島太郎。波の音がむなしく響く。

 次第に涙声になっていく浦島太郎。  

浦島太郎  「母ちゃんごめんよ、おいら本当に親不孝な息子だ。自分だけ夢のような生活をして、地上ではまさかこんな事になっていたなんて」

 手に持っている玉手箱をまじまじと見つめる浦島太郎。ふと何かに気づく。

浦島太郎  「そうだ、この箱! 絶対開けちゃいけないとか言ってたけど、これを開ければ何とかなるかも。うん、そうに違いない。それぐらいの不思議な力はあるはずだ。よーし…」

 ゆっくりと玉手箱を開けようとする浦島太郎。その瞬間、上手から亀吉がすごい勢いで駆けてくる。 間一髪のところで浦島太郎から箱を取り上げる。

亀吉    「ちょっと!」

浦島太郎  「え、亀?」

亀吉    「早まってはいけません!」

浦島太郎  「うわーおっきな亀だな! この固い甲羅、しなやかな首! 何だか懐かしいなー知ってるか? おいらは浦島太郎って言ってな、亀たちの間では有名人なんだぞ」

亀     「知りません。初めて聞きました」

浦島太郎  「え、そんな訳ねぇよ。お前、名前は?」

亀吉    「亀吉です」

浦島太郎  「亀吉かぁ。それにしても驚いたぁ、おいらこんなに早く走れる亀初めて見たよ」

亀吉    「馬鹿にしないでください。全く何かあれば亀はのろまだの、足が遅いだのって、ほんと失礼しちゃいますよ! そんな事はどうでもいいんです! あなた今、この箱を手に取って何をしようとしていたんですか?」

浦島太郎  「何って開けようとしていただけだけど」

亀吉    「あーっ、やっぱり! ちなみに…誰かから貰った物ですよね?」

浦島太郎  「そうなんだよ。おいらは昔お前みたいな亀を助けた事があってな。そのご褒美に竜宮城っていう所に招待してもらったんだ。そこには乙姫様っていう美しい方がいて、そりゃあもう夢のような時間だったさ。腹一杯料理を食べて、魚たちのダンスを見た。けど気がついた頃には3日も経っていた。おいらが慌てて帰ろうとしていたら、乙姫様が絶対に開けちゃいけないといってお土産にこの箱をくれたんだ。それから…」

 話しているうちに再び今自分が置かれている状況を実感する浦島太郎。体が震えて言葉に詰まる。不思議そうにそれを見つめる亀吉。

浦島太郎  「それから…地上に帰ってくると300年も経っていた…信じられか? 300年だぞ! 自分の家もない、知っている友達も、母ちゃんだって…一体おいらが何したっていうんだよ!」 

 ため息をつく浦島太郎。

浦島太郎  「これから自分がどうしたらいいのか全くわからなくなった。だから今のおいらにはこの箱ぐらいしか頼るものがないんだ。箱を開ければ元の世界に帰れるとかさ! 竜宮城があったんだ、そんな奇跡のような事があってもいいと思うだろ? なっ?」

亀吉    「あのーまことに言いにくいんですけど」

浦島太郎  「何だよ?」

亀吉    「いやーなんと言いますか…」 

浦島太郎  「はっきり言えよ!」

亀吉    「浦島さん…この箱、開けない方がいいと思いますよ」

浦島太郎  「え?」

亀吉    「開けると結構大変な事に…」

浦島太郎  「ははは、そんな訳ないって! おいらは亀を助けたお礼にこの箱をもらったんだ。大変な事なんか起きる訳ないさ。開けた途端に煙が出てきて、白髪のじいさんになる訳じゃあるまいし!」

亀吉    「……」

 黙り込んでしまう亀吉。その様子を見て不安になる浦島太郎。しばらくの沈黙の後、恐る恐る切り出す浦島太郎。

浦島太郎  「…そうなのか?」

亀吉    「はい…」

浦島太郎  「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何でそんな目に遭わなけりゃいけないんだよ。こっちは300年経って何もかも失ったんだぞ。その上、じいさんになれだなんてあんまりじゃないか!」           

亀吉    「僕は竜宮城に行った事はありませんし、乙姫様にも会った事はないのですが、今までその箱を開けて老人になってしまった人間を何人か見た事があるんです…」 

浦島太郎  「…おいらは昔から人を信用しすぎるんだよな。だからこんな目に合っちまうんだ」

亀吉    「浦島さん…」

浦島太郎  「ちくしょう!」

 突然亀から玉手箱を取り上げ、勢いよく海に投げ捨てる浦島太郎。

浦島太郎  「おいらの人生、何にもいい事なんかなかった。とりあえず漁師をやっていたけれど、この名前のせいでいつも窮屈な思いだったよ。今では歴史に名が残っている桃太郎や金太郎。彼らはみんなの憧れのヒーローだ。そんなすごい人達と同じ太郎という名をもらっておきながら、おいらには何もない。勇気も力も…」

亀吉    「確かにあの人達の伝説は今でも語り継がれています。けど浦島さんだって何にもない事なんかないです!」

浦島太郎  「ありがとうな。おいらまさか亀に助けられるとは思わなかったよ。おかげで老人にならずに済んだ。おいらにできる事があれば何でも言ってくれ!」

亀吉    「本当ですか!」

浦島太郎  「あたり前だ、亀吉はおいらの大恩人なんだからな!」

亀吉    「あーよかった、丁度協力してくれる人を捜していたんです」

浦島太郎  「おう、何だい? 言ってごらん!」

亀吉    「鬼を退治して欲しいんです!」

浦島太郎  「ははは、お易い御用だ! ……って鬼!!!」

 驚く浦島太郎。 

 暗転

 鬼が島の牢獄 捕まっているシンデレラと白雪姫 下手で板つき

 上手から鬼が登場

鬼     「がはははは、わしは何とついておるのじゃ。遠い島から来た絶世の美女を二人も捕える事ができたのじゃからのう。旨そうな娘たちじゃ、時期を見て美味しく頂くとしよう。どれ中の様子を見てみようかの。さぞかし震え上がっているに違いない」

 外から牢獄の中をのぞく鬼。

 突然、中から大きな笑い声

シンデレラ 「それでねぇ白雪姫! その時うっかりガラスの靴を落としてしまったのよ! ほんと私ってドジね」

白雪姫   「大変だったんですね」

シンデレラ 「あなたもそうじゃない。変装したお姉様に毒リンゴを食べさされたんでしょ?」

白雪姫   「そうなんです。その時の記憶はあまりないんですけど、もう私死んでしまったんだと思っていました。けど王子様がキスをして私を目覚めさせてくれたんです」 

シンデレラ 「運命の出会いってあるものね。私もその気持ちよくわかるわ。でその後、お姉様はどうしたの?」

白雪姫   「王子様が一度はお城から追放したんですけど、やっぱり実の姉なんで帰ってきてもらいました。今ではみんなで仲良くやってます。シンデレラさんの義理のお母様やお姉様は?」

シンデレラ 「私もさんざんいじめられたりしたけど、頑張って向き合おうって決めたの。だって義理っていっても死んだ父様が選んだ人だって思うと ね…けど私が王子様と結婚したものだから、その後はほんと大変だったのよ!」

白雪姫   「ははは」

 どこか和やかな空気

 話を聞いている間に感極まり、涙をボロボロと流す鬼。

鬼     「くーっ、苦労したんじゃのう! 何ていい娘達なんじゃ。 …いやいや感動している場合じゃない。何じゃ、いつの間にか二人ともすっかり打ち解けてしまってるではないか! ええい、もっと怖がるのじゃ。わしに怯えるのじゃ!!」

 ぶつぶつと独り言を言っている鬼。再び二人の様子を見る。

シンデレラ 「それにしてもせっかくの旅行でこの国に来たのに、まさかあんな鬼に捕まってしまうだなんて最悪だわ。付き人もどこに行ったのかわからないし。白雪姫はどうしてここに?」

白雪姫   「森の中で小人達の食料を探していたら不思議な白い煙を見つけたんです。思い切ってその中に入ってみると、出口がこの島につながっていて…」  

シンデレラ 「それであの鬼に見つかってしまったのね」

白雪姫   「はい」

シンデレラ 「私、魔法使いのおばあさんから聞いた事があるの。魔力を煙に封じ込める事ができる禁断の魔法があるんですって。時間や場所を移動させる事ができる恐ろしい魔法だそうよ」

白雪姫   「じゃあ私が見つけた白い煙って…」

シンデレラ 「もしかしたらその魔法が残っていたのかもね」

白雪姫   「きっとみんな心配しています…あの鬼は私たちをどうするつもりでしょうか? まさか食べられたりとか…」

シンデレラ 「あーないない、それは遥か昔のおとぎ話の世界よ。今時、鬼が人を食べる何て聞いた事ないわ。きっとこの国のヒーローが助けてくれるわよ!」

白雪姫   「それもそうですね」

シンデレラ 「ねぇ、知ってる? この国には昔、桃太郎や金太郎っていう素敵な方がいらっしゃったそうよ! 実は私、彼達の大ファンなの!」

白雪姫   「その話、私も聞いた事があります! かっこいいですよね!」

 またしても盛り上がる二人。それを見て苛立つ鬼。


鬼     「ったく好き放題言いおって! 近頃の人間は、捕まえられてるっていうのに緊張感というものがありゃしない。まぁいい、疲労と空腹で倒れた時が一番うまいのじゃ。ゆっくりと二人とも頂いてやるわい、がはははは!」

 そのまま上手にはけていく鬼。暗転。 

 下手から登場してくる浦島太郎。それを追いかける亀吉。

亀吉    「ねぇ、お願いです」

浦島太郎  「ちょっと待ってくれ。お前はおいらの恩人だ。けどいくらなんでも鬼を退治をしてくれだなんて…」

亀吉    「さっき何でもしてくれるみたいな事、言ってたじゃないですか?」

浦島太郎  「確かに言ったけどよ…ただおいらは漁師なんだ。魚のとり方は知ってても、鬼との戦い方なんか知らねぇんだよ」

亀吉    「僕の大切な姫様が鬼に捕まってしまったんです。今頃、ひどい目にあっているに違いありません! 浦島さん、どうかお力を…」

浦島太郎  「人が捕まってるのか…亀よ、さっきも言ったけど、おいらには何もないんだ。誇れるものが何一つないんだよ。それに300年経った今では何もかもが遅すぎる。そりゃその人を助けてやりてぇけど、おいらには無理だ。今更、桃太郎みたいな真似事できる訳ねぇよ!」

亀吉    「仲間を集めればいいじゃないですか! その桃太郎って人だって、一人で鬼を退治した訳じゃないでしょ?」

浦島太郎  「それはあの人に周りを引きつける力があったからだ! けどおいらは違う」   

亀吉    「じゃあ浦島さんにしかできない事をすれば…」 

浦島太郎  「何か勘違いしてないか! おいらはお前が期待するようなそんな優れた人間なんかじゃねぇ! おいらにしかできない事なんて、そんなの難しすぎてちっともわからねぇよ!」

 そっぽを向いて黙り込んでしまう亀。体を震わせている。

浦島太郎  「亀吉?」

亀吉    「浦島さんの意気地なし! わかりました、もうあなたには頼みません!」

浦島太郎  「おい…」

 亀吉、そのまま上手に駆けていく。取り残される浦島太郎。

 とぼとぼと考えながら下手に向かい帰ろうとする。しかし踏みとどまる。

浦島太郎  「あーっ、こんな情けない自分が大嫌いだ! 今からでもおいらは間に合うんだろうか? 誇れる自分になる事ができるんだろうか? 心配で不安で仕方ねぇよ……」

 ゆっくりと上手に向かい歩き出す浦島太郎。そのままはけていく。

浦島太郎  「おいらにしかできない事か…」  

 暗転

 森の豚の家。料理を作っているタッチ。テーブルの前で座っているお母さん。

お母さん  「タッチもういいよ。後は母さんがするから」

タッチ   「大丈夫だって、母さんは座ってて。僕も一人暮らしをするようになってから、ちゃんと料理作れるようになったんだから。まぁ味の保証はしないけどね」

お母さん  「おや、たくましくなったんだね。お前がこの家を出て行った時は心配で仕方がなかったけど、今では本当にそれでよかったと思っているよ」

タッチ   「母さん…もう出来るからね、少し待ってて!」

 突然、ドンドンと家の扉をたたく音。

お母さん  「おや、誰だろう?」   

タッチ   「兄ちゃん達かな?」

浦島太郎  「すいませーん…誰かいますか?」

 浦島太郎の疲れ果てた声だけが聞こえる。 慌てるタッチ。

タッチ   「母さん、聞いた事ない声だよ!」

お母さん  「…タッチ開けておやり」

タッチ   「うん」

 恐る恐る扉を開けるタッチ。 

 ふらふらの浦島太郎が、家の中に倒れ込んでくる。

浦島太郎  「す、すいません…」

タッチ   「うわっ、もしかして!」

お母さん  「あぁ、人間だよタッチ!」

タッチ   「どうしよう、僕、初めて見たよ!」 

浦島太郎  「腹へった…」「」

 空腹で倒れる浦島太郎。

お母さん  「この人、お腹がすいているんだ。タッチご飯を食べさせておやり」

タッチ   「えっ、でもこれは母さんの…」

お母さん  「今はそんな事、言っている場合じゃないだろ!」

タッチ   「うん、わかった」

 タッチ、浦島太郎を起き上がらせて椅子に座らせてあげる。

 できたての料理を浦島太郎に差し出す。

タッチ   「美味しいかどうかわからないですけど、よかったらどうぞ」

浦島太郎  「あぁ、すまねぇ。それじゃあ遠慮なく…うめぇ! 何てうまい料理なんだ!」

 ガツガツと料理を食べている浦島太郎。あっという間に完食。

タッチ   「えっ、ほんとですか! そんな褒められると何だか照れちゃうなーよっぽどお腹が空いてたんですね。まだまだおかわりあるんで、遠慮せずに食べてください」

浦島太郎  「いやーおかげで助かったー本当にありがとう! 食べ物はねぇし、道には迷うし、おいらもう駄目だと思ったよ」

お母さん  「あんたどうしてここに来たんだい? 見たところ悪そうな人じゃなさそうだけど…」

浦島太郎  「うーん話せば長くなるんだけど、ある奴に鬼退治を頼まれたんだ」

タッチ   「お母さん  鬼退治!?」

浦島太郎  「あぁ、そいつの大切なお姫様が捕まってる。だから今、仲間を捜してるんだよ」

タッチ   「鬼を退治するんですか! あなたすごい勇気があるんですね!」

浦島太郎  「その逆だよ。おいらには勇気なんかない」

お母さん  「…あんた名前は?」

浦島太郎  「浦島太郎だけど」

お母さん  「浦島さん。きつい事を言うようだけど、あんた誰かに頼まれたら何だってするのかい? 私は人間の事は何にもわかっちゃいないが、鬼を退治するって言ったってそんな簡単な事じゃない。もしかしたら命を失う事だってあるかもしれないんだ。それでもいいのかい? あんたを動かすものは一体、何なのさ?」

タッチ   「母さん!」

お母さん  「鬼が持っている財宝かい? お姫様を助けた名誉かい?」

タッチ   「母さん、いい加減にしてよ!」

浦島太郎  「いや、いいんだ。このお母さんの言う通りだ。全く無茶な事をしようとしてるって自分でも思う。…おいらそいつの頼み、一度は断ってるんだよ。それに色んなものを失った。だけど自分の中でこれだけはやっぱり失いたくないってものがある事に気がついたんだ」

お母さん  「何だいそれは?」

浦島太郎  「…どんな事があっても、ずっと人間らしくありたい。目の前で誰かが困っていたら怖くても、無理だと思っても、助けてあげたい。それだけなんだよ」

 黙って浦島太郎の話を聞いているタッチとお母さん。

 テーブルから立ち上がる浦島太郎。 

浦島太郎  「おいらそろそろ行くよ。ごめんな、迷惑かけちまって…」

 入り口のドアに手をかける浦島太郎。

お母さん  「ちょっと待つんだ!」

 呼び止められて、振り返る浦島太郎。

お母さん  「うちのタッチを連れて行ってくれないかい?」

タッチ   「ちょっと母さん何、言ってるんだよ?」

お母さん  「一人でも仲間が多い方がいいだろ? タッチ、浦島さんに協力してやるんだ」

タッチ   「でも…」

浦島太郎  「お母さん気持ちは嬉しいけど、こんな危険な事に息子さんを巻き込む訳にはいかねぇよ」

お母さん  「こう見えてもタッチはやる時はやる子だよ。きっとあんたの役に立ってくれるはずさ。タッチはどうなんだい? 本当はこの人と一緒に行きたいんだろ?」

浦島太郎  「そうなのか?」

タッチ   「僕…行ってみたい。小さい頃から人間はおっかないって思ってた。けどその反面憧れたりもして、ずっと会ってみたかったんだ。浦島さんは僕が想像していた人間よりいい意味で少し違うって言うか、なんかあんまり僕らと変わらないような気がしたんだよ。だから僕も浦島さんに協力したい」

浦島太郎  「ありがとう豚君」

タッチ   「タッチでいいいよ、浦島さん」

浦島太郎  「あぁ、タッチ!」

お母さん  「決まりだね」

 暗転  鬼が島 
 シンデレラ、白雪姫 下手  鬼 昼寝をしている 上手   板つき 


シンデレラ 「お腹空いたわー。空腹と疲労で倒れそうよ」

白雪姫   「ほんとですね、私たちいつまでここにいるんでしょうか」

 扉の前で立ち止まるシンデレラ。外を覗き込む。

 爆睡している鬼。 大きないびきが聞こえる。

シンデレラ 「もーっ、あの鬼許さないんだから。何よ気持ち良さそうに寝ちゃって」

白雪姫   「シンデレラさん、あんまり近づくと聞こえちゃいますよ」

シンデレラ 「平気よ。大体、あの鬼…」

 その瞬間、扉の鍵が開いている事に気づくシンデレラ。

シンデレラ 「…この扉開いてるわ」

白雪姫   「えっ、本当ですか?」

 思わず確認する白雪姫。驚く。

シンデレラ 「うっかり鍵をかけ忘れていたのよ、今がチャンスだわ! 鬼が寝ている隙に逃げ出すのよ」

白雪姫   「けどもし鬼が目を覚ましたら、私たち恐ろしい事に…」

シンデレラ 「大丈夫。もし危ないと思ったら、すぐこの牢屋に戻りましょ。とりあえず、この通路さえ抜ければ何とかなるはずよ」

 無言でお互いの顔を見合わせる二人。同時にこくりとうなずく。

 だるまさんが転んだのように忍び足で近づく。鬼のすぐそばを通りかかろうとした瞬間、大きないびきをかきながら、寝返りをうつ鬼。大慌てで牢屋まで戻る二人。息が荒い、白雪姫は今にも泣き出しそう。

白雪姫   「シ、シンデレラさん、私もう駄目です。怖すぎて心臓が飛び出しちゃいそうです」

シンデレラ 「頑張るのよ、白雪姫。もう少しだわ」

 再び再挑戦。忍び足の二人。今度はさっきよりも進むが、またしても鬼のいびきと寝返りで苦戦する。再び牢屋へ。

シンデレラ 「もうっ、何て寝相の悪い鬼なのよ!」

白雪姫   「この調子だとその内、起きますよ。やっぱり辞めた方が…」

シンデレラ 「いくら待っても誰も助けに来ないのよ。白雪姫、あなたずっとここで過ごす事になってもいいの?」

白雪姫   「それは…」

シンデレラ 「あきらめちゃ駄目。次はきっと大丈夫よ。三度目の挑戦。今度も苦戦するものの何とか鬼よりも先の通路に進む事に成功する」 

シンデレラ 「なーんだ、楽勝じゃない!」

白雪姫   「あーっ、よかった」

 すっかり安心する二人。その真後ろでは鬼がむくっと起きて、二人を見つめている。シンデレラの肩をポンポンと叩く鬼。

シンデレラ 「もう、何よ白雪姫!」

 笑いながら振り返るシンデレラ。そこには鬼の姿が。白雪姫も怯えて固まっている。突然、大声を上げる鬼。 


鬼     「食ってやる!」

白雪姫 シンデレラ  「ぎゃー!!」 

 そのまま上手に駆けて行く鬼と二人。

 暗転。

 森の中  下手から歩いてくるタッチと浦島太郎。

浦島太郎  「タッチのお母さんっていい方だよな」

タッチ   「そうですか? 僕、ずっと一緒に暮らしてたからあんまりわかんなくて」

浦島太郎  「初めてあった人間のおいらにあんな風に素直に接してくれて、何だか嬉しかったよ」

タッチ   「帰ったら母さんに伝えておきます。あっ、この家です」

浦島太郎  「それにしても大丈夫かな? 確かタッチの一番の親友なんだっけ?」

タッチ   「大丈夫です。あいつなら鬼退治きっと引き受けてくれますよ。それに僕なんかよりも、遥かに迫力のある奴ですから」

浦島太郎  「迫力?」

 どんどんと家の扉を叩くタッチ。

タッチ   「おーい、僕だよ。開けてくれー」

 上手からガヤ登場。扉を開ける。

ガヤ    「タッチか! 久しぶり!」

 突然、ガヤを見て腰を抜かす浦島太郎。ガヤも浦島太郎を見て驚く。

浦島太郎  「うわーっ、お、おおかみ!」

ガヤ    「うわーっ、に、人間!」

タッチ   「もうっ、ガヤ初対面だってのに失礼だよ! 浦島さんも彼に怖がっていたら到底鬼なんて退治できませんよ!」

浦島太郎 ガヤ  「だって…」

 間に挟まれ苦笑いのタッチ。

タッチ   「紹介するね。この人は浦島さん。捕まっている姫様を鬼から救い出す為に旅をされているんだ」

ガヤ    「鬼! それはすごいですね…初めましておおかみのガヤです。いきなり驚いたりしてすいません」

浦島太郎  「いやいや。おいらは浦島太郎。こちらこそびくついてしまって我ながら情けない。鬼を退治するっていっても、おいら一人では何にも出来なくて…こうやってタッチに助けてもらってるんだ」

ガヤ    「えっ、タッチお前もいくのか?」

タッチ   「そうだよ」

ガヤ    「お母さんは大丈夫なのかよ? もちろん反対されたんだろ?」

タッチ   「その母さんに行って来いって言われたんだよ。それに僕もこの浦島さんに興味が湧いたんだ」

ガヤ    「お前がそういうなんて珍しいな」

タッチ   「ガヤ、もし君が良ければ協力してあげない? ほら浦島さんからも!」 

浦島太郎  「あぁ、人を助けてやりてぇんだ! 協力してくれ! 頼む!」

 少し考えて切り出すガヤ。

ガヤ    「わかりました。ただ…」

タッチ   「ただ?」

ガヤ    「浦島さん、タッチは僕の一番の親友なんです。出来れば危険な目に合わせたくない。何かあった時、彼を守れるって約束できますか?」

浦島太郎  「わからねぇ…」

ガヤ    「え?」

浦島太郎  「おいらが絶対守ってやるなんてそんな頼もしい事、軽々しく言えねぇんだ。けど協力してもらえる以上、自分が犠牲になってでも精一杯やろうって思ってる」

 無言でガヤを見つめるタッチ。

 それに応えるように笑顔になるガヤ。

ガヤ    「その気持ちだけで十分ですよ、お供しましょう」

浦島太郎  「本当か? ありがとう」 

タッチ   「よかったですね、浦島さん!」

浦島太郎  「あぁ!」

ガヤ    「でその鬼がいる場所はどこにあるんですか?」

浦島太郎  「あ、いけねぇ! あの亀に場所、聞くの忘れてた!」

 ずっこけるガヤ。どこか嫌な予感がするタッチ、恐る恐る切り出す。

タッチ   「…そういえば浦島さん、手ぶらですよね。もしかして鬼を退治する為の武器とか持ってなかったりして…」 

浦島太郎  「あ、いけねぇ! 何にも持ってねぇや!」

 ずっこけるタッチ。二人顔を見合わせる。

タッチ ガヤ  「大丈夫かなこの人…」

 暗転

 サルのおばさんの店

おばさん  「あー暇や暇や。店の商品は相変わらず全然売れへんし、毎日同じ事の繰り返しで何かものたらへんわー。昔が懐かしいなーうちも若い頃はイケイケで毎日が新鮮やってんけどなー。あーこう胸躍るような大冒険に巻き込まれへんかなー」

 下手から三人登場。タッチがドンドンと扉を叩く。

おばさん  「毎度いらっしゃーい!」

タッチ   「おばさーん、タッチです!」 

おばさん  「何やタッチかいな! 鍵開いてんで!」

 家の中に入ってくる三人。

おばさん  「久しぶりやなータッチ! 最近顔見せへんから元気してるんか心配やったわ!」

タッチ   「それよりおばさん聞いてよ…」

おばさん  「何やガヤもいてるんかいな。久しぶりやな。村のみんなからガヤの事よう聞くで。素直でいい子やって褒めてはるわ。ここの生活にもだいぶ慣れて来てるみたいやし良かったな」

ガヤ    「はい、これも村のみなさんが協力してくださったおかげです。あとおばさん今日はもう一人いるんですよ」

おばさん  「あぁ、そうなん! 何やタッチとガヤの後ろに隠れてやんとはよこっちおいで!」

 奥にいる浦島太郎の手をつかみ引っ張り寄せる。しかしちゃんと浦島太郎を見て大慌てのおばさん。体を触って心配する。 

おばさん  「あんた何やの! 全然、動物っぽくないやんか! なんか悪いもんでも食べたんか? ひづめもないし、爪もこんなんなって、あー可哀想に…」

タッチ   「おばさんその人、人間だよ」

 再び驚くおばさん。ぺこりとお辞儀をする浦島太郎。

浦島太郎  「どうも」

おばさん  「人間! うわーっ、うち初めて見たわ! けど何か優しそうな人やな」

浦島太郎  「ありがとう、おいら浦島太郎って言うんだ」

おばさん  「浦島さんやな、よろしく。で今日はみんなそろってどないしたん? あーっ、さてはうちがあまりにも奇麗やからって、浦島さんに紹介しようと思ったんかタッチ?」

タッチ   「違うよ」

おばさん  「違うんかいな。つまらんなぁ」

タッチ   「おばさんちょっと色々あってさ、戦うための武器が欲しいんだよ」

おばさん  「何や物騒やな、まぁない事はないけど。一体、誰が使うん?」

ガヤ    「浦島さんです。今から鬼を退治しにいくんですけどこの人、何にも持ってなくて」

タッチ   「ほんとだよ、しっかりしてよね浦島さん」

浦島太郎  「仕方ないだろ、急に頼まれたもんだから何にも準備してなかったんだよ」 

おばさん  「鬼退治って…あんたら本間気つけや。何や深刻そうやし反対はしやへんけど、あんまり無茶したらあかんで。ちょっと待っとき、見てくるわ」

 奥から店の商品を探すおばさん。刀をもってくる。

タッチ   「うわーっ、すごい!」

ガヤ    「それなら鬼だって退治できそうだ」

おばさん  「丁度いいのあったわ。本間は商品ちゃうねんけど、うちに古くから代々伝わる刀やねん。昔、金太郎っていう人間がお侍になった時、使ってたものらしいわ」

浦島太郎  「金太郎…」

タッチ   「すごいね、ありがとうおばさん。けどこんな大事なものいいの?」

おばさん  「当たり前やん、あんたらの頼みやったらお安いご用やわ。ほらっ浦島さん、ぼけっとしてやんと試しに持って構えてみ」

浦島太郎  「あぁ、ありがとう」

 持って構えてみる浦島太郎。

ガヤ    「すごい、浦島さん。とっても強そうですよ」

タッチ   「うんっ、様になってますよ。刀は使った事あるんですか?」

浦島太郎  「いいや、けど思ってたより使いやすいな」

 力強く試し切りをし始める浦島太郎。

おばさん  「浦島さん、その刀の切れ味は本物やで。いくら鬼でも一太刀浴びたら、致命傷やわ」

浦島太郎  「致命傷か…」

 急に黙り込む浦島太郎。

タッチ   「どうしたんですか? まさか怖くなりました、浦島さん?」

浦島太郎  「いや、もちろんそれもないって言ったら嘘になるけど…鬼を退治するってことは、命を奪うってことなんだよな」

ガヤ    「そうですね。その鬼の出方にもよりますけど、あまりにも危険な場合、 あり得るかもしれないですね」

浦島太郎  「おいらにできるかな…」

タッチ   「弱気になっちゃ駄目ですよ。お姫様を助けるんでしょ?」

 黙り込んでしまう浦島太郎。どこか嫌な空気になる店内。その瞬間、店の扉がドンドンと鳴る。

おばさん  「誰やろ? あんたらの仲間かな?」

ガヤ    「え? もう僕ら以外にはいませんよ」

おばさん  「まいどいらっしゃーい! 鍵空いてまっせー」

 大慌てで下手から駆け込んでくる亀吉。

亀吉    「浦島さん!」

浦島太郎  「亀吉!」

亀吉    「村の人からここにいるって聞いたんです。すいません僕、初めて会ったばかりなのにあんな無茶なお願いをして。断られても当然です」

浦島太郎  「いいや、ひどいのはおいらの方だ。助けてくれたお前に、あんなひどい事を言ってしまった。自分が情けなくて仕方なかったよ」

亀吉    「僕、もう一人で行こうって決めたんです。無茶だってわかってるけどやっぱりお姫様を残して帰るなんて僕には出来なくて。その挨拶に来ました」

 何も言わない浦島太郎。 

亀吉    「浦島さん、お世話になりました。またどこかでお会いしましょう」

浦島太郎  「…亀吉、お前に紹介したいんだ」

亀吉    「え?」

浦島太郎  「おいらの仲間達だ」

亀吉    「浦島さん…」

浦島太郎  「仲間を集める何て絶対無理だと思っていたけど、こうやってみんなが協力してくれた。だからおいらはあきらめねぇ。辛い事があっても、失っても、もう一度何かを始めるのに、本当に遅い事なんてないってことを証明してやるんだ」

タッチ   「やってやりましょう」

ガヤ    「うん」

おばさん  「頑張りや!」      

浦島太郎  「教えてくれ、鬼のいる場所を!」

 嬉しくて今にも泣きそうな亀吉。元気よく応える。

亀吉    「はい!」

 暗転  

 鬼が島  板つき

 縄でしばられているシンデレラと白雪姫

鬼     「がっはっはっはー、わしから逃げるとはいい度胸をしておるわい! 安心せい、今から食ってやるからのう」

シンデレラ 「何よ食うってあんた本気で言ってんの! 私たちなんて食べても美味しくないわよ!」

 二人の顔を覗き込み威圧する鬼。怯える二人。  

鬼     「この恐怖に怯えた表情。実に旨そうじゃ」

白雪姫   「助けて…お願い…」

シンデレラ 「この国にはヒーローがいたんじゃないの…誰も助けてくれないなんてあんまりじゃない…」

鬼     「助ける? 誰がお前達を助けると言うのじゃ? 誰が命をかけてまでこのわしに戦いを挑むというのじゃ? 人間なんてそんな生き物じゃ。結局は自分が一番かわいい。誰かの為に何かをするなど所詮は綺麗事じゃ。ましてや誰かを信じるなど馬鹿らしいわい。人間は本当に哀れな生き物じゃのう」

 白雪姫の体をつかむ鬼。大きな口を白雪姫の首元に近づけて行く。

シンデレラ 「やめてーー!」

 間一髪のところで下手から浦島太郎、亀、タッチ、ガヤ登場。

浦島太郎  「待てっ!」

鬼     「何じゃ?」

浦島太郎  「その姫様から手を離すんだ!」

亀吉    「シンデレラ様、よくぞご無事で!」

シンデレラ 「あぁ、無事だったのね亀吉。うれしいわ」

鬼     「わしに命令するとはいい度胸じゃ!」

 白雪姫から手を離す鬼。

シンデレラ 「大丈夫、白雪姫?」

白雪姫   「はい、何とか…。シンデレラさん、あの方は一体?」

シンデレラ 「私もわからないわ…」

鬼     「貴様、名は?」

浦島太郎  「浦島太郎だ!」

鬼     「太郎?」

 突然、気でも触れたように大声で笑う鬼。

鬼     「がっはっはーお前が太郎じゃと? なめた事を言いよるのう小僧。それでわしを退治しにきたという訳か?」

浦島太郎  「ああ、そうだ。おいらはその姫様達を救いにお前を退治しにきたんだ」

鬼     「ふんっ、桃太郎の真似事か。残念じゃがのう…貴様からは何も感じられんわい。桃太郎はすべてを持っていた。知力、実力、人望、何もかもじゃ。そんな者に貴様がなれる訳なかろう」

浦島太郎  「そんなのやってみねぇとわからねぇよ」

鬼     「おもしろい! 来い、返り討ちにしてくれるわ!」

 鬼に向かおうとする浦島太郎。それを止めるタッチとガヤ。

タッチ   「ここは僕たちにまかせてください」

浦島太郎  「けど…」

ガヤ    「大丈夫です、浦島さん」

 無言でうなづく浦島太郎。タッチとガヤ勢いよよく鬼につかみ掛かる。しかし、あまりの力の為、吹き飛ばされてしまう二人。   

タッチ   「何て力なんだ」

ガヤ    「僕の爪や牙でも全く歯が立たないなんて…」

鬼     「がはっはっーそんなものか貴様達の力は」

亀吉    「浦島さん、今こそその刀を使うときです」

タッチ   「うん、サルのおばさんが言ってました。その刀の切れ味なら一太刀、浴びせる事がでれば致命傷だって」

ガヤ    「それなら何とかなりますよ、頑張って浦島さん!」

 刀を持って無言でゆっくりと近づいて行く浦島太郎。

鬼     「ん? 刀か。見た目だけはそれなりのようじゃのう。しかし、そんなものがわしに通用するかのう?」

 浦島太郎、鬼と一定の距離を保ったところで突然立ち止まる。

浦島太郎 「みんなすまねぇ…」

 そして持っていた刀をその場にすてる浦島太郎。一同、驚く。

浦島太郎  「おいら、お前とは戦わねぇ…」

鬼     「がっはっはっー急に怖じ気づいたのか? 貴様は利口じゃ。わしと勝負したところで命を落とすだけじゃからのう」

浦島太郎  「そうじゃねぇ。戦って命を奪い合うなんて、そんな事したくねぇんだ。おいらはお前と話し合いたい」

鬼     「話す? 貴様は何を言っておるのじゃ? わしは化け物じゃぞ? 人間のお前とまともに話ができる訳がなかろう」

浦島太郎  「おいらはその姫様達を助けたい。その為なら何だってする。だからお前の望みを聞いてやるよ」

鬼     「望みじゃと?」

浦島太郎  「あぁ、何だっていい」

鬼     「ほう、おもしろい男じゃ。よかろう…」

 隅から箱を持ってくる鬼。

鬼     「ならばこの箱を開けぃ! そうすればこの娘達は助けてやろう」

浦島太郎  「その箱を開けるだけでいいんだな?」

鬼     「安心せい、中身は空っぽじゃ。罠など仕掛けておらん」

タッチ   「浦島さん!」

ガヤ    「鬼の言葉を信用してはいけません!」

亀吉    「それはきっと玉手箱です! 中から煙が出てきて、浦島さん今度こそ老人になってしまいますよ! 絶対開けちゃ駄目です!」

浦島太郎  「みんな大丈夫だ。こいつは約束してくれた。この箱を開ければ姫様を助けてくれるって。それに罠も仕掛けてないって言ってるんだ」

シンデレラ 「鬼の言葉を信じるって言うの? あなた無茶よ!」

白雪姫   「そうです、嘘に決まってます!」

 みんなの忠告を聞かず、箱を開けようとする浦島太郎。

 大声で笑う鬼。 必死で止めようと叫ぶ一同。 箱を開ける。

 沈黙。

 何も起きず箱の中身は鬼の言う通り空っぽ。

浦島太郎  「そうか…やっぱり何も入ってねぇ」

 みんな驚いている中、突然鬼が大声を上げて苦しみ始める。

 照明消える。

鬼     「ぐわぁぁぁぁぁあ! 何故じゃあああーー」

 照明点く。 その間、板つきのまま鬼は老人の姿になっている。

 驚いて声が出ない一同。 息が荒いその人物、次第に落ち着きを取り戻し立ち上がる。 

浦島太郎  「あんた…もしかして…」

桃太郎   「あぁ、いかにも…わしは桃太郎じゃ」

浦島太郎  「何であんな姿になっていたんだよ? 鬼は人間だったっていうのか?」

 何も言わない桃太郎。桃太郎につかみ掛かる浦島太郎。

浦島太郎  「おい! 答えろ! 俺はあんたを小さい時からずっと尊敬してたんだ。あんたと同じ太郎って名前をもらって、時にはそれが重荷になる時もあったけど、やっぱり嬉しかったんだよ! なのにどうしてあんな姿になっちまったんだ! あんたはみんなのヒーローじゃなかったのかよ!」

桃太郎   「桃太郎はすべてを持っていたとさっきお前に言ったな。知力、実力、人望…しかしのう、その内、桃太郎は次第に自分の中であるものが失われている事に気がついたのじゃ。それが何かわかるか?」

浦島太郎  「…わからねぇよ」

桃太郎   「人を信じる心じゃ」

浦島太郎  「人を信じる…」

桃太郎   「桃太郎は鬼を退治してその噂はあっという間に広まった。英雄だと崇められてな。しかしのう、人間の汚い部分を見ている内に桃太郎はいつしか誰一人として信用しなくなっていったのじゃ。人を信用せぬ者を誰も信用などしない。その汚れた心が膨張し成れの果ての姿が鬼という訳じゃ。自分が退治したはずの鬼にいつからか自分がなってしまっていた。何十年、何百年とのう、情けない話じゃ…」

浦島太郎  「情けないなんて、言わないでくれよ! あんたは俺の憧れなんだ…俺にないものをあんたは持ってる」

桃太郎   「あぁ確かに持っておる。しかしのう、お前もわしにないものを持っていたのじゃ。人を信じる心…お前がわしを信じてくれたおかげで、わしの中の心は晴れた。おかげでこうやって元の人間に戻れたのじゃ感謝しておる」

浦島太郎  「けどおいらはやっぱりあんたのようには…」

桃太郎   「浦島太郎! お前は浦島太郎なんじゃ! 桃太郎でも金太郎でもない! 自分にしかできない事、誇れる事がお前にはちゃんとあったじゃろ? 周りを気にしても、比べても全く意味などない。浦島太郎は浦島太郎にしかなれないんじゃよ!」

浦島太郎  「おいらは、おいらにしかなれない…じゃあ好きになっていいのか? このままの自分を素直に好きになってやっていいのか?」

桃太郎   「当たり前じゃ」

 涙声で話す浦島太郎。

浦島太郎  「すまねぇ桃太郎さん。おいら今まで気づかなかったよ。自分にはずっと何もないんだって思ってた。それが嫌で情けなくて、純粋にあんたを憧れてはいたけれど、いつからか憧れるだけの方が楽だってどこかで思っていたんだ。けどそれは違う。ただ自分から逃げていただけなんだよ。だからおいらはもう逃げない。今の自分と向き合ってやる。この浦島太郎を精一杯好きになってやるんだ!」

桃太郎   「お互いにな…」

浦島太郎  「あぁ…」

 浦島太郎、桃太郎 手を取り握手をする。

浦島太郎  桃太郎  「人間らしく!」

 一同拍手喝采。 みんな二人の周りに集まってくる。

 和やかな空気。

桃太郎   「浦島太郎、お前はこの世界の人間ではないな?」

浦島太郎  「あぁ、よくわかったな。おいら300年前から来たんだ」

桃太郎   「どうじゃ元の世界に帰る気はないか?」

浦島太郎  「そりゃ帰れるなら帰りてぇよ」

桃太郎   「そうか。なら帰るがよい」

浦島太郎  「桃太郎さん、あんた何言ってるんだ。帰り方がわからねぇからここにいるんじゃねぇか」

 またしても別の箱を持ってくる桃太郎。それを浦島太郎に渡す。

桃太郎   「この箱を開けるんじゃ」

浦島太郎  「またかよ、どうせ何も入ってないんだろ?」

桃太郎   「早く開けるんじゃ」

浦島太郎  「へいへい、わかったよ…」

 浦島太郎が箱を開けた瞬間、煙がこみ上げる。亀、桃太郎につかみ掛かる。

浦島太郎  「これって…」

亀吉    「あなた何したんですか! このままじゃ浦島さん老人になっちゃいますよ!」

桃太郎   「まぁまぁ落ち着け、老人にはならん。これはお前達が思っている玉手箱ではないのじゃ。魔法使いが魔力を込めた玉手箱、これがわしがずっと守り続けておったこの島の財宝というやつじゃ。後、数分もすればお前は300年前に帰る事ができる。わしを助けてくれたお礼じゃ」

浦島太郎  「桃太郎さん…ありがとう。じゃあ、みんなともお別れだな…」

 驚く一同

亀吉    「えっ…そんな…」

シンデレラ 「ずるいわ…助けてもらったお礼もちゃんと言ってないし、あなたとまだ出会ったばかりなのにお別れだなんて…私はあなたをもっと知りたかった…」

白雪姫   「シンデレラさん…」

タッチ   「浦島さん! 行かないでよ、みんなと一緒にこの村で暮らしましょうよ!」

ガヤ    「タッチの言う通りです。きっとみんな賛成してくれます! だから…」

浦島太郎  「みんなありがとう。けどおいらはやっぱりここに居ちゃいけねぇんだ。みんなにはみんなの、おいらにはおいらの帰るべき場所があるんだよ」

 無言で納得する一同

浦島太郎  「亀吉、今まで本当にありがとう。おいらお前に助けられて本当によかった。お前があの時、おいらを助けてくれたから、おいらは誰かを信じる事をあきらめないですんだんだ」

亀吉    「浦島さん、僕、あなたに出会えて本当によかったです! あなたみたいな素敵な方に出会えて本当によかったです!」

浦島太郎 「タッチ、ガヤ、おいらについてきてくれて本当にありがとう。頼りなくて迷惑かけて悪かった。けどおいらはお前達と旅が出来て楽しかったよ。おかげでここまで来れた。おばさん達にも伝えてくれ。こんな人間に優しくしてくれて、本当にありがとうって!」

タッチ   「浦島さん、僕ずっと待ってます! 何年かかってもあの村で、浦島さんが遊びにきてくれるのを必ず待ってます!」

ガヤ    「浦島さんは僕に本当の強さを教えてくれました! あなたに協力できてよかったです!」

浦島太郎  「シンデレラさん、白雪姫さん。おいら昔話のヒーローみたいに格好よくはなかったけど、あんた達を助ける事ができて本当によかった。これからもみんなのヒロインでいてあげてくれ」

シンデレラ 「ありがとう…あなたの心は誰よりも素敵で格好いいわ! 私、あなたの事、絶対に忘れない!」

白雪姫   「浦島さん助けてくれて本当にありがとう! あなたは私たちの永遠のヒーローです!」  

浦島太郎  「桃太郎さん…行ってくる」

桃太郎   「あぁ、言葉はいらん。またな!」

 浦島太郎に手を振る一同。

浦島太郎  「じゃあなーみんなーー元気でなーーーー」

全員    「ありがとう!!!」        

 暗転

 波の音  浜辺  板つき  寝ている浦島太郎。起き上がる。

浦島太郎  「ここは…おいらが生まれた海! おいらが生まれた世界!」

 感激してあたりをうろうろと見て回る、浦島太郎。

浦島太郎  「忘れねぇ、絶対忘れねぇよ。おいらの名前は……浦島太郎だ!!」

 そのまま舞台奥に向かい、歩いて行く浦島太郎。成長した勇ましい後ろ姿。

浦島太郎  「かあちゃーん、帰ったぞー!!!」

                                           エンド

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