「サークルマート」

〈登場人物〉

山本 りな      (22) サークルマート店長 

松永 隆           (33) 元不動産会社営業マン 現サークルマート店員

中井 啓一(強盗)  (22) 就活中


 とあるコンビニ サークルマート 店内
 カウンターに立っているりなと松永。
 りなはギャルファッション。松永はきっちりと制服を着こなし、 
 どこかエリートサラリーマン風。 
 カウンターにはギャル系雑誌や、化粧道具が置いてあり散らかっている。
 りなは気にせず鏡を見て自分の化粧を直している。 
 お客さんが店に入ってくる様子を見る二人。   

りな 「しゃーせー」

松永 「(ハキハキと)いらっしゃいませー」

 お客の気配を感じて化粧を中断するりな。

りな 「あ、どーもです。3番ですね」

 タバコをスキャンする所作。

りな 「えーっ、430えんです。丁度いただきまぁーす。…………あざしたぁー」

松永 「(ハキハキと)ありがとうございましたー」

 りな、再び化粧を開始。

松永 「店長……」

りな 「何ですか?」

松永 「あのー僕まだ会った事ないんですけど、オーナーさんってこのお店に来られるんですか?」

りな 「あーパパですか? 何かー他の店舗も飛び回ってるんで、たまに覗きにくる程度なんですけど」

松永 「そうですか、お会いしたらちゃんと挨拶しようと思って」

りな 「そんなの適当でいいですよー松永さんて真面目ですねー」

松永 「いえ未熟なだけです。店長もその若さでこのお店を背負ってるだなんて、感服いたします」

りな 「そーですか? オーナーの娘っていうだけですよ。つーか松永さんもすごいじゃないですか。履歴書見ましたよ」

松永 「いや僕なんて全然……」 

りな 「何かバリバリ仕事やってましたーって感じで、どうして辞めちゃったんですか?」

松永 「どうしてですかね、人間関係といいますか何といいますか……」

りな 「ふーん、貯金はいくらあるんですか?」 

松永 「はい?」

りな 「だから貯金」

松永 「それは……」

りな 「がっぽり稼いでたんでしょ?」

松永 「いやーお金に困ってなかったらこんな店で働きませんよ」

りな 「は? こんな店?」

松永 「あ……いやっ、その…………今日も髪型決まってますね!」

りな 「でしょーいやー松永さんほんとわかってますねー。これはりなの努力の結晶なんですよー」 

 雑誌を読み始めるりな。どこか落ち着かない松永。

松永 「あのー僕は何をしたらいいですか?」

りな 「あーっ、……特にないですね」

松永 「えーっ! 出勤してまだ五分も経ってないんですけど、もう仕事ないんですか?」

りな 「いやーまぁ、あるっちゃあるんですけどー、どっちでもいいっていうかー」

松永 「どっちでも……」

りな 「てかぶっちゃけー夜勤ってヒマなんですよー、だからー適当にやってたら何とかなるんで」

松永 「はぁ」

りな 「松永さんって、ここで働きはじめてどれぐらいでしたっけ?」

松永 「もうすぐ二週間ですね」

りな 「夜勤は初めてですか?」

松永 「はい。だから今日は気合いを入れて頑張ります!」

 ポケットからメモを取り出す松永。

りな 「うわーっ、やる気満々ですねー」

松永 「ありがとうございます。 早く仕事を覚えて、他のみなさんに迷惑がかからないようにと思ってます。ですからビシバシ、シゴいて下さい」

りな 「へー松永さんドMなんですね」

松永 「はい?」

りな 「そんな真面目な顔してムッツリって」

松永 「いや店長…」

りな 「仕事中とはまた別の一面ですね」

松永 「店長」

りな 「(爆笑)超ウケるー」

松永 「店長ー!!」 

りな 「声でかいですよ」

松永 「店長、あなたは何か勘違いをされています」

りな 「勘違いですか?」

松永 「はい。私は決してムッツリではないです」

りな 「じゃあビシバシされるのは嫌いなんですか?」

松永 「いや好きですよ。休日には日本橋のそういうお店にも行きますし……って違ーうっ!!」

りな 「どっちなんですか」

松永 「いや僕が言ってるのは、仕事でシゴいて欲しいんですよ」

りな 「何か卑猥な響きですね」

松永 「(ため息をついて)……」

 沈黙。
 再び雑誌を見るりな。
 松永、何か出来る事がないかと辺りを見渡している。

松永 「店長」

りな 「何ですか?」

松永 「次は何をしたらいいですか?」 

りな 「そうですねーじゃあ……」

 それとなく、りなも辺りを見渡す。

松永 「(期待)……」  

りな 「やっぱないですねー」

松永 「ない訳ないでしょ」

りな 「何ガッカリしてんすかー」

松永 「だって仕事しに来てるのに、仕事できなかったら、僕はもう何をすればいいんですか!」

りな 「だから夜勤はほんと暇なんですって」

松永 「けど暇って言ってもさすがに何かあるでしょ」

りな 「(改まって)松永さん」

松永 「はい、店長」

りな 「何もしない事も、仕事の一つですよ」

松永 「……」

 沈黙。   
 深呼吸や瞑想をしながら必死に何もしない事に挑戦する松永。
 しかし次第にプルプルと禁断症状が起きて、

松永 「仕事……」

りな 「(無視)」

松永 「仕事……」

りな 「(無視)」

松永 「仕事……」

りな 「もうわかりましたよ! じゃあその肉まん入れといて下さい」 

松永 「(即答)はい! 任せて下さい!」

 松永、肉まんを袋から取り出し、什器に入れようとする。

松永 「店長ー今入ってる分はどうしたらいいですか?」

りな 「もう廃棄するんで捨てちゃって下さーい」

松永 「はい。新しいのは何個入れましょう?」

りな 「そうですねーもうほとんどお客さん来ないんで、二個ぐらいでいいです」

松永 「はい。今からどれぐらいで販売したらいいですか?」

りな 「そうですねー30秒くらいでいいですよ」

松永 「30秒! えっ! でも店長この肉まん、まだカッチカチですよ」

りな 「そりゃそうですよ。さっきウォークインから出したばっかなんですから」

松永 「あーそうなんですか。いやそんな事、聞いてるんじゃなくて」

りな 「じゃあ何ですか?」

松永 「だからこんなに固かったら、お客さん食べれないですよ。絶対にクレームになると思いますけ
ど」

りな 「松永さんわかってないですねー」

松永 「何がですか?」

りな 「この固さがーこの店のウリなんですよ」

松永 「そうなんですか!?」

りな 「りなのパパがこの伝統を託してくれたんですよ」

松永 「(申し訳なさそうに)すいません……そうとは知らずに」

りな 「(改まって)松永さん」

松永 「はい、店長」

りな 「コンビニの仕事は奥が深いんですよ」

松永 「……」

 松永、律儀にメモに肉まんの販売時間を記入。
 突然、店の電話が鳴る。
 電話に出るりな。

りな 「お電話ありがとうございまーす、サークルマートでーす。あ、はい……はい……肉まんですか? 
そうですねーその時間だと入れたのは、りなですねー。えっ? あーりながりなです。だから、りなです。……責任者? あーそれも、りなです。……(イライラした口調で)は? いやいやあの固さがいいんやって。ちゃんと個性でてるやん? ……やから何回言わせんねん! あの固さがええの! ほんまわかってへんなー大体コンビニの肉まんに…………あ、切れた……」

 沈黙。                                 
 りなをじーっと見つめる松永。

りな 「やっぱ肉まんは好評価ですねー」

松永 「いや絶対クレームでしょ!」

りな 「何がですか?」

松永 「今の電話ですよ! お客さんの漏れてる声聞きましたけど、大激怒じゃな いですか!」

りな 「聞いちゃったんですか?」

松永 「はい」

りな 「えっちっすね」

松永 「店長……さっきから何で僕を変態キャラに仕立て上げようとしてるんですか?」

りな 「ばれました?」

松永 「あたりまえです」

りな 「(舌をだす)てへっ」

松永 「可愛いな、おい!」

 思わず頭をはたいて突っ込んでしまう松永。
 気まずい空気。
 りな、人が変わったように、

りな 「おいコラ、誰にタメ語きいてんねん!」

松永 「えっ……」

りな 「しかも今、手ぇ上げたのぅ?」

松永 「いやっ、その……」

りな 「りなの苦労と汗の結晶の髪が崩れるやろが! これ盛るのに何時間かかってる思てんねん!」

松永 「……」

りな 「こっちも年上や思て気ぃ使ったってんのに、調子乗ったらこれか? おぉ!」

松永 「店長……」

りな 「仕事、仕事てポンコツのロボットみたいな事ぬかしやがって、同じ事しか言えんのかコラ!」

松永 「口悪ー」

 上手からナイフを持った中井(強盗)が登場。
 しかし松永にブチ切れているりなの姿にびびって後ずさり。
 松永はそれに気付いているが、りなは気付かず絶好調。

りな 「大体のぅー真夜中のコンビニに女が働いてるっていう意味わからんのか? お前、男やろが! 
ナイフ持った強盗が来たときに、女だけは絶対守るっちゅー勢いないんか!? まぁ、ないやろな。お前みたいなドM……」

松永 「店長……」

りな 「なんじゃい、まじでしばいたろか……」

松永 「後ろです!」

りな 「は?」

松永 「だから後ろ!!」

りな 「後ろが何やって……」

中井   「お、おい金を出せ!」

りな   「取ってったらええやろが!!」

 「(松永、中井同時に)えっ!」  

りな 「おい、お前ちょっと来い」

松永 「店長!?」

 カウンターの中に中井を入れるりな。

りな 「このボタン押したらレジ開くから」

中井   「あ、どうも……」

りな 「(松永に)大体、お前はなー」

松永 「いやっ、おかしいでしょ!」

りな 「何がやねん!」

松永 「お店のお金と、髪の毛とどっちが大事なんですか」

りな 「髪の毛や!」

松永 「即答ー」

りな 「そんなん言うてるからいつまで経っても童貞やねん」

松永 「もう卒業してますよ!」

りな 「なんや言い訳か? パパに言いつけてクビにすんぞ!」

松永 「それは鬼畜過ぎる……じゃなくて店長、よく見て下さい! 強盗ですよ、ナイフ持った!」

りな 「は? ナイフ?」

 まじまじと強盗を見つめるりな。
 お互いに目が合う。
 りなにびびりまくっている中井。にこっと会釈。
 りなもにこっと会釈。          

りな 「(ぶりっ子っぽく)きゃー怖い!」

松永 「いや店長、ばれてますって」

りな 「そんな事ないですよー」

松永 「さり気なく元に戻っても無駄です」

りな 「つーかやばいですよ、まじで本物じゃないですか」

松永 「だからさっきから言ってるでしょ。てかどうしてレジの開け方教えたんですか!」

りな 「興奮してつい……」

松永 「ついって……」

りな 「(舌をだす)てへっ」

松永 「……」

りな 「松永さん?」

 硬直して様子がおかしい松永。

りな 「何ビビってんですか! ほらっ、男でしょ!」

 りな、松永の背中を無理矢理に押す。

松永 「(緊張で声が裏返り)お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、おい、お前!」

りな 「どんだけ『お』が多いんですか! 台本で見たら大変な事になってますよ」

松永 「だって店長……」  

りな 「見かけによらず実はヘタレだったんですねーこのガッカリ感、ハンパないです」

松永 「いやっ、僕はヘタレてなんかないですよ」

りな 「じゃあ強盗捕まえて下さい」

松永 「申し訳ありませんでした」

りな 「ほんと情けないですねー」

 松永と入れ替わり、中井の方へ進んで行くりな。

りな 「あのー」

中井 「失礼しましたー!!!」

 土下座をして謝る中井。 

りな 「え?」 

松永 「??」

中井 「姉さん! 俺をこの店で雇ってくれ!」

りな 松永 「(吉本 内場勝則風)い”ーっ!!」

 暗転           

 明転 

 サークルマート店内                           
 数日後、レジを操作している中井。
 格好は強盗のまま。
 その様子を上手で見ているりなと松永。

松永 「店長……」

りな 「何ですか?」

松永 「どうしてあいつが働いてるんですか?」

りな 「雇ってくれって言われたんで」

松永 「けど強盗ですよ……」

りな 「松永さんも細かいですねーやる気があればいいんですよー」

松永 「金を盗んだり、何か妙な事をされたらどうするんですか?」

りな 「そんな事ある訳ないでしょー」

中井 「姉さーん、中間点検終わりましたー」

りな 「あざっす! ほらっ、やる気満々ですよ」

松永 「(どこか納得がいってない)……おい」

中井 「俺は『おい』じゃない。『中井』だ」

松永 「面倒くさい奴だな」

中井 「いやいや、おっさんの方がな」

松永 「おっさんって……お前な仮にも俺は先輩で、年上なんだぞ」

中井 「は、そんなの知らねぇよ」

松永 「とにかくお前がレジの接客をするにはまだ早すぎる」   

中井 「何でだよ! さっき姉さんに教えてもらったんだから、問題ねぇって」

松永 「問題あるんだよ」

中井 「だからその理由は!」

松永 「それは……とにかく! そのままじゃお客さんに迷惑がかかるかもしれないって言ってるんだ」

中井 「ふーん、あんたさ俺の見た目や、それ以外の事が気になってしょうがないんだろ?」

松永 「……どういう事だ?」

中井 「俺の中身になんて全く興味がないって言ってんだよ! 結局、偏見じゃねぇか」

松永 「……」

中井 「まっ慣れてるから別にいいんだけど。で、どうすればレジやらせてもらえんの?」

松永 「店長、僕にやってくれた時みたいに、一度予行練習しませんか?」

りな 「まーぶっちゃけりな的にはどっちでもいいんですけどー」

松永 「……お願いします」

りな 「わかりました。じゃありながお客さんの役をしますねー」

松永 「はい」

中井 「おい! 予行練習って何すれば良いんだよ?」

松永 「これが本番だと思ってレジの接客をやってみるんだ。お客さんが喜ぶようにな」

中井 「あぁそういう事ね……言われなくてもやってやるよ」

 りなと中井の小芝居が始まる。
 中井、カウンターで待機。
 りな、何故か老婆の客の役でやってくる。 

中井 「いらっしゃいませー、こんにちはおばあさん」

りな 「(しゃがれた声で)こんにちわ」

中井 「今日もいつものですか?」

りな 「あぁ3番のタバコをおくれ」

中井 「3番ですね」

 タバコを取りに行く中井。  

中井 「あーすいません。今、ちょっと在庫切らしてるみたいで……」

りな 「そうかい、残念だねぇ」

中井 「そうなんですよーあっ! おばあさん、とりあえず財布出してもらえますか?」

りな 「あぁ、財布ね」

中井 「あとお札ありますかね?」

りな 「これかな?」

中井 「そうです諭吉のやつです」

りな 「年金が入ったばかりだから、わりと持っとるよ」 

中井 「それはよかった。そしたら諭吉五枚もらいますね」

りな 「あぁ、五枚ね」

 万札を受け取る中井。

中井 「はい、じゃあ五万円お預かりします」

りな 「また来るよ」

中井 「(にっこりと)ありがとうございましたー!」

 そのまま去って行くりな。

松永 「ちょっと待てーい!!」

中井 「何だよおっさん」

りな 「松永さんー今からクライマックスなのにー」

松永 「何だよじゃないよ! 店長もです! 今、完全にお金盗んでたよね?」

中井 「いやいや、成立してたじゃん。ねぇ姉さん?」

りな 「ハリウッドもびっくりって感じ!」

松永 「コンビニ店員がお年寄りからカツアゲするなんて事があるか! そうでしょ店長?」

りな 「そうですよ!」

松永 「いやそうですよって、ノリノリだったくせに……」

りな 「だってーカツアゲは駄目ですよ、絶対」

中井 「姉さんの言う通りだ、そんな事する奴の顔が見てみてぇよ」

松永 「あーもう何が正しいのかわからなくなってきた……」

中井 「ドンマイおっさん!」

松永 「大体、何でお前はここで働こうって思ったんだ?」

中井 「理由なんてねぇよ、ただそう思っただけだ」

松永 「常識的に考えてだ、強盗に入ったのを許してもらった上に、働かせてもらえるなんてありえない事なんだぞ」

中井 「常識って何だよ。俺馬鹿だからおっさんの言ってる事はよくわかんねぇ。それにそれを決めるのはおっさんじゃなくて姉さんだろ?」

松永 「屁理屈ばかりだな」

中井 「何だとこの野郎……」

りな 「松永さん!」

松永 「……はい」

りな 「ちょっと先に休憩行ってもらっていいですか? 中井君と話したい事もあるんで」

松永 「……わかりました」

 上手へとはけていく松永。
 りな、中井の隣に立って、

りな 「どう、コンビニの仕事は?」

中井 「何か楽しいです」

りな 「りなから見てだけどー中井君て強盗するような人に見えないんだけどなー」

中井 「そうですか……」 

りな 「うん」

中井 「……」 

りな 「何か理由でもあったの?」

中井 「……」

りな 「これでも店長なんだしー何でも聞くよ」

中井 「……俺、こんな感じでしょ?」

りな 「ん?」

中井 「ガラもいいとは言えねぇし、実際馬鹿ばっかりやってきたし……けどこんな俺でも嫁さんがいてもうじき子供も生まれるんです……」

りな 「子供って、中井君いくつ?」

中井 「今年で22です」

りな 「りなと同いなんだ」

中井 「……だから焦って仕事しなきゃって思ったけど、どこへ行っても軽くあしらわれて……どいつも
こいつも履歴書を見て何で学校を辞めたんだとか、この空白の期間は何をしてたんだとか……そこで思ったんです。そんなに今までの事が大事なのか! 今、頑張ろうって思った奴に対してなんでこんなに世間は冷たいんだよ! って」

りな 「……そうだね」

中井 「それでいつまで経っても働くところがなくて……でも借金は溜まっていくばかりで……どうする
事もできなくなりました。結果このザマです」 

りな 「それで強盗を?」

中井 「はい」

りな 「りなねー中井君の気持ち少しだけわかるよ」

中井 「えっ?」

りな 「だってーりなも見た目こんなんじゃん。派手だし、周りの印象も正直良くないってわかってる。けどさーやっぱこの格好も好きなんだもん、辞めろっていわれても好きなものは無理っしょ」

 黙ってりなの話を聞いている中井。

りな 「初めて会った人にも嫌な印象持たれるよ。こいつは頭悪いんだろうなーとか軽いんだろうなーとかそんな目で見られてるのがわかる。正直、ムカつけどね。りなだって考える事ぐらいあるし、何もかも軽い訳じゃないって思ってる……だから」

中井 「だから?」

りな 「偏見とかじゃなくてちゃんと中身を見れる人になりたいって思った」

中井 「店長……」

りな 「うわーっ、今りな超クサい事言ってた?」

中井 「はい」

りな 「恥ずかしくて死にそうー」

中井 「でも何か店長っぽかったです」 

りな 「一応店長だからね」  

中井 「……さっきはおっさんがいたから言いたくなかったんですけど、俺の働きたい理由って多分そこなんだと思います。姉さんなら俺の気持ちわかってくれそうだなって、そんな気がしてました」

りな 「そうなんだ。キレてたのに?」

中井 「キレてたから……かな?」

 りな、中井、お互いを見合わせて笑いがこみ上げる。

中井 「俺、何もできないですけど一生懸命頑張ります」

りな 「うん、そうだね。まぁーなんとかなるっしょ!」

 暗転

 明転

 サークルマート店内
 一ヶ月後                                

 カウンターにはりなと松永。

りな 「いやー中井君すごいですねーお客さんからも大人気ですよー」

松永 「そうなんですか?」

りな 「何かー強盗の店員が働いてるって、巷で噂になってるみたいです」

松永 「強盗の店員……まぁ確かにそのとおりですけど」

りな 「それに売り上げも伸びてるし、もう最高ですねー」

松永 「でも店長、あいつこの店のやり方を変え過ぎじゃないですか?」

りな 「例えば?」

松永 「レンジもカウンターの前に出して、温めセルフになってるし」

りな 「温め時間を調整できるこの日を待っていましたーってお客さんの喜びの声をよく聞きます!」

松永 「肉まんも『カッチカチ肉まん』ってメニューが追加されてるし」

りな 「この商品は、りな的に声を大にして言います。一押しです!!」

松永 「店の前にたまってるヤンキーを片付けるのも、ギリギリアウトなぐらい力技だし」

りな 「平和になりましたねー」

松永 「ですが店長、あいつのやり方は極端な気がするんですよ」

りな 「じゃあ松永さん。あなたが最近やった仕事を教えて下さい」

松永 「最近ですか? エロ本の袋詰めをなくしました」

りな 「その結果、どうなりました?」

松永 「悪ガキの立ち読み率が急激に増えました」

りな 「全然、駄目じゃないですか!」

松永 「お言葉ですが店長! その件は店長が『松永さーん、エロ本の袋詰めもうしなくてもいいです
よー』って言ったんじゃないですか」 

りな 「そうでしたっけ?」

松永 「そうですよ」

りな 「いやー松永さんが自分の欲望に身を任せて、勝手にそうしたんだと思ってました」

松永 「してません! てかもっとまともな仕事をさせて下さいよ」

りな 「まともな仕事?」

松永 「はい」

りな 「……松永さん。正直に言わせてもらいますけど、自分で仕事を待ってても何も始まらないですよ。松永さんの能力が高いのはりなも含めてみんなが認めています。けど実際には、中井君の方がお
店の売り上げを伸ばしてくれてるじゃないですか」
松永 「それは……僕のやり方とあいつのやり方では……」

 上手から登場する中井。
 鞄を担いでいる。

中井 「すみませーん姉さん! ちょっと常連さんに捕まっちゃって……」

りな 「いいよー中井君、気にしないで」

 中井、りなと松永の空気を感じて、

中井 「……何か話されてる途中でした?」

松永 「いや、何でもない」

中井 「ふーん」

りな 「お、中井君、鞄変えたんだ!」

中井 「はい! 前のはボロボロだったんで」

りな 「いいじゃん! 似合ってるよ」

中井 「ありがとうございます」

りな 「じゃあ中井君も来てくれた事だし、りなはそろそろあがろっかな。じゃあ後は二人に任せるからねーおつかれっす!」    

中井 「(松永と同時に)うぃっす!」

松永 「(中井と同時に)はい!」

 上手へとはけていくりな。
 取り残されている中井と松永。どこかきまずい空気。 

中井 「あのさ」

松永 「何だ」

中井 「おっさん、俺の事嫌いだろ?」

松永 「どうしてわかる」

中井 「いやっ、わからない方がおかしいから」

松永 「そうか……そんなにわかりやすかったか」

中井 「あぁ」

松永 「嫌いだね。何もかもが俺と違いすぎて頭が痛くなる」

中井 「違いすぎるって、あんたみたいな人間も珍しいんじゃねぇの?」

松永 「何がだ?」  

中井 「自分はできてるって思い込んで周りを見下してる。俺の一番嫌いなタイプだ」

松永 「それの何が悪い。できる人間とできない人間がいるのは当たり前だ」

中井 「じゃあそんな自信満々なあんたが、どうして前の会社を辞めたんだ?」 

松永 「…………おい生意気な口を叩くのもいい加減にしろ」

中井 「どうせ自分の事しか考えてなくて、周りから見放されただけなんじゃねぇの?」

松永 「黙れ」

中井 「本当の事だと思うけど」

松永 「お前に俺の何がわかる!!」

中井 「……」

松永 「やりたくもない事をやらなくてはいけない辛さ、生き残る為に自分を偽る苦しさ、そんな社会を知らないクソガキが偉そうな事を言うんじゃねぇよ!」

中井 「あぁ、知らないね。知りたくもねぇよ、そんな世界! それであんたみたいなロボット人間になるんだったら、こっちから願い下げだ!」

松永 「何だと!」

中井 「やんのかコラ!」

松永 「あ……」

 お客さんが店に入ってくる様子を見る松永。

松永 「(ハキハキと)いらっしゃいませー」

中井 「気に入らねぇな……あれ姉さん?」

 りな、再び上手から登場。

りな 「言い忘れていた事がありました」

松永 「何ですか?」

りな 「ちょっと二人に相談なんですけどー」

 りな、二人に紙を見せる。

松永 「これは……」

りな 「こないだの棚卸しの結果です」

中井 「ひどいな……この差」

りな 「色んなアイディアで確かにこの店の売り上げは伸びました。でもこの結果を見ると残念としか言えないんですよねー」

中井 「姉さん、これってやっぱり……」

りな 「万引きです」

 沈黙。

りな 「しかもこの数は異常ですねー。内部の犯行も考えられます」

松永 「内部の犯行……」 

りな 「そこでお二人には怪しいと思った人物を調べて頂きたいんです。常連のお客さんやこの店のスタッフも含めて」

中井 「姉さんは俺たちも疑ってるっていうのか?」

りな 「ぶっちゃけりな的には、可能性がゼロとも思ってないです」

松永 「まぁ数が数ですもんね。わかりました」 

りな 「二人にしかこの件は話してないんで、他のスタッフには言わないでください」

中井 「了解です」

松永 「はい」

りな 「じゃあよろしくお願いしまーす、あ、中井君ー外でタバコ吸うのついて来てー」

中井 「またですか? (松永に)ちょっと行ってくる」

松永 「あぁ……」  

 上手へとはけていくりなと中井。
 中井の鞄が放置されている。
 それをじっと見つめている松永。

 暗転

 サークルマート 事務所
 翌日 椅子に座っているりな、
 この時点で中井と松永の荷物も、机や椅子に置かれている。
 中井と松永が下手から入ってくる。
りな 「お疲れさまー少し時間いいですか?」

松永 「あぁ大丈夫です」

中井 「今日もミーティングですか?」

りな 「いやっ……りなも正直テンパってるんですけど……」

松永 「……何かあったんですか?」

りな 「中井君」

中井 「はい」

りな 「君の鞄を開けてもらえる?」

中井 「え? 姉さん、何言ってるんですか?」

りな 「いいから……開けて」

中井 「……はい」

 中井、自分の鞄を開ける。
 すると中にはタバコのカートンが。

中井 「えっ!」

りな 「中井君……りな的にもこれは駄目だって思ったんだけど、おかしな事ばっか続くから、仕事中に鞄の中を見させてもらったよ」

中井 「これは……」

りな 「ちゃんと答えて。これは君がこの店で買ったタバコ?」

中井 「違います……」

りな 「じゃあ何?」

中井 「わかりません……俺、本当に記憶にないんです。今日店に来るまでは入ってなかったし……」

りな 「実際、調べたらそれはやっぱりこの店のタバコで、在庫の個数も合うんだよ」

中井 「そんな……」

りな 「つまりお金を払ってないのに、中井君の鞄の中に入ってるってこと」

中井 「姉さん、違うんです! 信じて下さい!」

りな 「中井君、この状況はいくらなんでも無理っしょ? それに君は一度この店に、強盗に入ってるんだもんね」

中井 「それは……その事は言ってほしくなかったです……」

りな 「一応、りな的にも立場があるから。残念だけど……」

中井 「俺、どうなるんですか?」

りな 「……辞めてもらう事になるかな」

中井 「辞めるって……嫌だ」

りな 「中井君、これは仕方ないよ」

中井 「嫌です、せっかくここで働けるようになって、自分でも少し変われたのかなって思ったのに」

りな 「けどここは君だけの場所じゃないんだよ。他の人の事も考えたら、君を働かせる訳にはいかな
い」

中井 「お願いします……俺やってないんです!」

りな 「そう言われても……」

松永 「店長、すみません!!」

 突然、りなに向かって土下座をする松永。

 りな 「松永さん、どうしたんですか?」

 松永 「僕がそのタバコを中井の鞄にいれました……」

 沈黙。

中井 「おい……まじかよ……」

りな 「それ本当なんですか?」

松永 「はい」

りな 「どうしてそんな事を……」

松永 「中井が気に入らなかったから、ハメてやろうと思ったんです」

中井 「このクソ野郎!!」

りな 「中井君!」

 松永に掴みかかる中井。

中井 「お前はどんだけ腐ってんだよ! そんな生き方して楽しいのかよ!」

松永 「……」

中井 「おい!」

松永 「……」

中井 「何とか言えよ!」

松永 「……」

中井 「ちくしょう…………姉さん、すみません……」

松永 「すみません……」

 沈黙。     

りな 「二人が謝るんだったら、りなも謝らないといけないですねー」

 「(松永、中井同時に)えっ!?」

りな 「ごめんなさい」

中井 「何で姉さんが謝るんですか?」

りな 「あのタバコを入れたのは……りなです」

中井 「えっ……おっさんじゃ……」

りな 「松永さんは確かに入れてない。中井君をかばったんですよね?」

松永 「……」

中井 「姉さん、言ってる意味がよくわかんないんですけど……」

りな 「松永さんと中井君の仲が上手くいってない事は前々からわかっていました。だから試させても
らったんです。松永さん……どうして中井君をかばったんですか? 生意気で気に入らなかったんでしょ?」

松永 「……自分でもよくわかりません」

中井 「おっさん……」  

りな 「りなは松永さんも中井君も大好きです。だから松永さんが中井君をかばってくれて、本当に嬉しかった」

松永 「……僕は弱い人間です。周りの事ばかり気にして、今まで年齢を重ねて来たんです。中井に言われた事も図星だから腹が立って……」

りな 「松永さん……りなはまだ若いし何もわかんない事だらけだけど、店長をやるようになって一つだけわかった事があるんです」

松永 「何ですか?」

りな 「弱いんですよ。りなも中井君も、今言ったように松永さんだってそうだと思います。でもね、その弱さを受け入れたら強くなれそうじゃないですか。一人で無理なら誰かを頼れば良い。だから、みんなで支え合っていきましょう。りな達は……サークルマートの仲間なんですから!」

 「(松永 中井同時に)ありがとうございます!」

りな 「さぁーこれから忙しくなりますよー」

 三人の表情に清々しい笑顔が浮かび始める。

りな 「松永さん」

松永 「はい」

りな 「中井君」

中井 「はい」

りな 「コンビニの仕事は奥が深いんですよ」


   「(松永、中井同時に)はいっ!!」        

                                           エンド

コメント

タイトルとURLをコピーしました