一人ぼっちの恐竜がいました。
恐竜はお父さんが大好きでした。強くてたくましくて、恐竜の村でも人気者。僕も大きくなったらお父さんみたいに立派な恐竜になるんだと信じていたのです。
ある日、おとうさんが病気で倒れてしまいました。ベッドで寝込むお父さんに恐竜は話しかけます。
「どうして? お父さんは強かったんじゃないの? こんな病気へっちゃらだよね?」
「あぁ、へっちゃらさ。お父さんは嘘は言わないよ。……今夜は一緒に寝よう、さぁこっちにおいで」
「うん」
恐竜は安心してお父さんと一緒に眠りにつきました。
次の日の朝、恐竜が目を覚ますと隣には冷たくなってしまったお父さんの姿がありました。いくら呼んでも、動かしても、泣いても、叫んでも、お父さんは起きてくれません。
頭が真っ白になってしまった恐竜は、そのまま家を飛び出していきました。そして村から少し離れた誰もいない丘に登り、一人涙に暮れながら思ったのです。
「嘘つき……ちっとも強くなんかないじゃないか……お父さんなんか、お父さんなんか……大っ嫌いだ!!」
それから二、三日が経ち恐竜は村に帰ってきました。しかし、ずっと泣き続けていた恐竜の肌は村のみんなと同じ色ではなく、どんよりとした青色に変わってしまったのです。恐竜は悲しみを押し殺しながらも、仲の良かった友達に話しかけます。
「やぁ、ひさしぶりだね。元気かい?」
友達は恐竜を見ると、無視をしてどこかへ行ってしまいました。お世話になったおばさんに話しかけます。
「おばさん、久しぶり」
「やぁ、久しぶりだねぇ……」
返事はしてくれるけど、やはりおばさんも逃げるようにどこかへ行ってしまいます。
結局、恐竜は村のみんなとまともに話をする事ができませんでした。恐竜は一人ぼっちになってしまいました。
「僕の肌の色が変わったからだ……そりゃそうさこんな気味の悪い色になっちゃって、このままじゃ誰も相手になんかしてくれる訳ない。なんとかして元の色に戻さないと」
月日は流れ次第に恐竜の肌の色も元に戻ったのですが、相変わらず恐竜は一人ぼっちでした。誰もまともに相手をしてくれません。恐竜は悩みました、原因が一体なんなのかわからなかったのです。
恐竜はいつも家で泣いていました。お父さんもベッドの上で横たわっていました。寝ているだけでいつか目を覚ましてくれるだろうと信じて、恐竜はお父さんを亡くした日からずっとそのままにしていたのです。
ある日恐竜は、ずっと前にお父さんから預かっていた手紙の存在を思い出しました。
時が来るまで見ては行けないと言われていたのです。恐竜は手紙を読んでみる事にしました。
「お前に謝らなければいけない事がある。お父さんは病気に負けたんだ。お父さんも ずっと強い訳じゃない。お母さんがいないお前にとって、お父さんがいなくなる事はものすごく辛くて大変な事だ。申し訳ないと思っている。けれどいつまでも悲しんでいたら駄目だ。辛い事、悲しい事から目を背けたら駄目なんだ。今をきちんと受け止めてほしい。お父さんはもうここにはいない。だからもうお前と話す事も、遊ぶ事も、面倒を見てあげる事もできない。けれど時間をかけてゆっくりでいいから、そんな時こそ笑ってごらん。笑う事をなくさなければ、誰かが味方になってくれる。何度でも立ち上がれるんだよ。お前は強い子だきっとできるよ。一生の味方、お父さんより」
「ごめんなさい……ごめんなさいっ!!」
恐竜は大声を上げて泣きました。そしてゆっくりと泣くのを止めました。
恐竜は家の前にお父さんのお墓を立ててあげたのです。
それから恐竜は一人ぼっちではなくなりました。
村のみんなも驚くほど反応が変わり、今まで以上に友達が増えて村ではすっかり人気者になっていました。
恐竜の表情はお父さんの言葉通り、いつでも笑顔だったのです。
おわり
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